4話 回想 ページ6
サンビスタと出会ったのは、確か3週間前位。
4月ももう終わりに近づき、桜が散り、若葉への衣替えを始めていた、初夏にしては少し風が肌寒かった日のこと…
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トレーナーside
その日は、スカウトして仮契約を結んだ娘のトレーニングを何日か指導していたが、
「メニューが軽いし、毎日違うから安心感がない」
という理由で断られてしまい、初めて断られたことのショックで物凄く落ち込んでいた日だった。
断られたのは午後練習の時。私はそのあとの仕事もなかったため、少しは気分転換になるかと気晴らしに解放されている屋上へと重い足取りで向かった。
階段を登っていくと、微かに音楽が聞こえてきた。
それは登れば登るほど大きくなっていく。
タンバリン?太鼓?どの楽器のものとも言えない色々な音が混ざった陽気な音色が聞こえてくる。
屋上に続く扉の前に着く。音楽が聞こえるということは誰か人がいるかもしれない、邪魔しちゃ悪いな、と思った私は、わずかな扉の隙間から屋上の様子を伺った。
そこにはあの陽気な音楽に合わせ、満面の笑みを浮かべて踊っているウマ娘が1人。
情熱的で、パワフルで。見ている方も元気が出てくるような踊りをする彼女に、私は釘付けになっていた。
彼女が踊り終わり、私は(もっと見ていたかったなぁ…)と少し残念に思った。だが、彼女が踊っているのをこっそりと見ていた罪悪感があったため、私はここをそっと離れる事にした。
そのときだった。突風が吹き、扉が バン!! と大きな音を立てて開いた。
大きな音と、急に入ってくる冷たい風に驚き、
『うわあぁっっ!!』
トレセン学園全体に響き渡ったんじゃないかって位の大声で叫び、尻もちをついてしまった。何とも情けない。
その大声に気づいた彼女がこっちにやってくる。
…ん?私がここで見てたのバレるかも…うん。バレたらしょうがない…。
そんなことを考える私に向かって、彼女は少し笑いながら、手を差し伸べてくれた。
「大丈夫?もしかして君、風に驚いちゃったの?」
『…うん。急だったから驚いて…。』
この醜態を素直に認めながら、彼女の手を借りて立つ。
「大丈夫?ケガしてない?」
『擦ったりはしてないから、大丈夫。ありがとうね〜』
「なら良かった!あとさ君、さっき私が踊ってたの見てたでしょ?」
顔を青ざめさせる私にニコニコしながら近づいてくる。
ウマ娘は騙せないようだ。
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作者名:はむすたぁ | 作成日時:2024年3月16日 8時