くすぐったいよね ページ1
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“ねえ！ねえってば！あんた、聞いてんの？”
「ああ、ごめん、純喜がなんだって？」
我が家の朝の食卓は、懐かしいアイツの話で持ちきりになっていた。
“だから、河野さん家の純喜くんが帰省してくるんだって！”
お母さんなんて、朝から何度も純喜、純喜って…
純喜、というのは小学生からの腐れ縁の名前。
うざったいくらいの腐れ縁で繋がっていると思っていたそんな彼は、今では遠い雲の上の存在になってしまった。
“あの純喜くんがまさかアイドルになるなんてねえ………”
「そうだねえ…」
何度も繰り返されるお母さんの話なんてほぼ上の空。
目線は、ニュース番組の占いに釘付けで。
「うわ、12位じゃん」
朝の占いにかなり一日を左右されるタイプである私はため息をつく。
突然の災難に見舞われるかも。ラッキーアイテムは折り畳み傘……
「折り畳み傘……」
“ねえ、小学生のとき純喜くんが…”
食事中の家族相手に思い出話を展開する母を後目に、私は用意してあったバックの中に折り畳み傘を詰め込む。
お天気おねえさんは雨が降るなんて、そんなこと一言も言ってなかったけど、占いは絶対なんです。
「行ってきま〜す」
休日だけど、残っている仕事を片付けに朝から近所のカフェに向かうことにした。
一歩外に出ると、まだ朝なのに8月の強烈な日差しがジリジリと肌を焦がすのを感じる。
純喜……、か……
久々にその懐かしい名前を聞いて、胸にしまっていたはずのあの淡い気持ちを思い出さずにはいられなかった。
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作者名：璻子 | 作成日時：2023年8月27日 2時
