【文スト】どうも、配達のおにーさんです【男主】

配達二四:お兄さん、弟子に闇を見せる ページ30

⋅






⋅


「良いかい？ よく覚えておくんだよ。場違いな表情は人を恐怖の底に陥れる。どんな人でもとはいかないが、大抵の人間は恐怖を感じるか、動揺する。隙が出来るんだ。簡単にね」





有島は笑顔のまま。それは狂気か、それとも────


太宰の顎を掴み、上を向かせた有島は、太宰に語りかける。


それはそれは、極上の笑みで。






「人形になれ、太宰治。作り物になるんだ。どんな状況でも笑っていろ。何時も余裕な態度を見せろ。笑顔のポーカーフェイスを絶対に崩すな。そして心を殺せ」



──────この私のように。



太宰はそこで初めて気が付いた。
有島の瞳には何も映っていないことに。ただただ、暗い闇が見えるだけ。それは、森のモノとも自身のモノとも比べ物にならないくらいの─────闇。



一体、この男は今まで何を見てきたのだろうか。


全くの空虚しかないその瞳は、何時からそんな風になってたのだろうか。



誰が、何が、彼を悪魔にしたのだろうか。




太宰はその瞳に、笑みに、魅せられてしまっていた。


反らせない、反らしたくない。





「笑え、治。笑うんだ。お前なら出来るだろう。そして壊せ。壊すんだ。周りの凡てはお前の敵だ。そう思うんだ。絶対に笑顔を絶やすな。油断をするな。隙を一切見せるな。誰にもお前の心を覗かせるな。─────出来るな？」



「─────はい、先生」



太宰は心に決めた。


この先ずっと、自分はこの男に付いていこうと。

配達二五:お兄さん、壊れている→←配達二三:お兄さん、ナイフを刺す

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す