５８ ページ9
.
その日、宮舘くんは家まで送るの一点張りだったけど、そこまで迷惑はかけられないと断った。
けど結局駅まで送って貰って。
宮舘くんの服もそのまま着ているのに、傘まで貸してくれた。
「明後日の学校に絶対持ってくるんだよ」
人の少ない改札口で、私が持つ大きな黒い傘を指さした宮舘くん。
私はギュッと握り、コクンと頷いた。
お母さんみたい…
そんな言葉を飲み込み改札をくぐろうとした時。
手を掴まれた。
振り向くと、彼は切ない瞳を揺らしていて。
ハッとなった宮舘くんは、ゆっくり私から手を離す。
「気をつけて」
「…うん、ありがとう」
こんなにホッとするのは何でかな。
帰りたくないって思うのは、なんで。
このまま宮舘くんと目を合わせていたらダメだと思い、私は振り切るように改札をくぐった。
もう一度振り向くと、彼は優しく微笑みながら手を振ってくれて。
私も控えめに振り返す。
手に持った先輩へ送るはずだったプレゼントより、貸してもらった傘に熱が篭もった。
家に帰ると、お母さんが心配して出迎えてくれた。
私の姿を見て驚愕する。
「え！！？？ちょ、A！！男の子の服じゃない！！」
「…お父さんに聞こえたら殺されそうだから声控えて、お願い」
「彼氏さんに貸してもらったの？」
お母さんは私が先輩と付き合っていることを知ってる。
だからそう言ってるんだろう。
「違う、この傘もこの服を貸してくれた人と同じ人だよ。女友達の弟くんのだから、安心して」
めちゃくちゃ嘘を吐いた。
家に帰ってまで泣いてたまるか。
先輩なんて思い出してやらないと、そんな強い意志を込め嘘をついた。
自分の部屋に行き着替える。
宮舘くんの服を洗濯機に入れに行こうと手に取ると、微かに彼の匂いがした。
彼の服を洗濯機へ入れると、ポケットに入れたスマホが揺れた。
手に取りながら階段を上ると、私の目に飛び込んできたのは「悠先輩」の文字。
電話は鳴り続けるが、私は音を切って全て出なかった。
その後も何度も何度も電話はかけられ、通知は悠先輩だらけになっていて。
気持ち悪くなりスマホの電源ごと落とす。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 604人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ガム | 作成日時：2022年9月25日 15時
