合わないピントの眼鏡越し(Lt.BLU) ページ35
「だから待っててください」
「ん?」
「必ず好きにさせますから」
「…」
「例えば今の俺とAさんの距離がこのくらいだとして」
中島くんは地面を蹴り上げた。
私より背の高い中島くんは当然足だって長い。
ぴょん、ぴょん、ぴょん と遠かった距離が一気に縮まり
私の目の前でぴたっと止まった。
「これくらいまで近づきます」
「中島くん」
「外見だけじゃねーぞって元彼とは違うぞって 思い知らせてやりますから」
子供っぽくケラケラと笑って 夜の坂道を下る。
.
「Aさーん!今日は月イチの上映会ですよ!迎えにきました!」
「え?」
「一緒に行こ!じゃ、Aさん借りまーす」
友達はどーぞどーぞ不束者ですがって私の背中を押す。
なんだかんだ理由をつけて中島くんは私の所によく来るようになった。
この前は新曲の感想を聞かせて欲しいってスタジオに、
その前は友達の誕生日プレゼントを一緒に探してほしいって河原町に、
その前はカラオケ行きたいとかなんとか。
「Aさん」
「ん?」
「その眼鏡合ってないですよね」
「え、なんで分かったん!これ前に作ったやつやし度数が合ってへんねん」
冬を過ぎて、季節は春になろうという頃。
今年お花見どーする?っていう話題が出始めた。
過ごしやすくて春は好きなんだけど…どうも鼻がむずむずする。
眼球を取り出して丸洗いしたくなっちゃう。
花粉の時期はゴロゴロ感が気色悪くてコンタクトはできない。
普段眼鏡使わないし、いざ使うってなった時に「あ、合ってないんやった」って思い出すパターン。
まぁそんなに支障はないからいいかって。
でも、なんで中島くんは合ってない事が分かったんだろう。
「去年の夏合宿 覚えてますか?」
「夏合宿?」
「写真」
写真…中島くんの趣味でもある写真。
最終日にみんなで中島くんの写真を見てた時のことかな。
「俺がね、Aさんのこと好きになった理由だったんだけどな」
BOXまでは あと少し。
思わず並んで歩く中島くんを見上げた。
するといきなり眼鏡を取り上げられ、
眼鏡を掛けてた時よりもぶよぶよに歪んだ視界は中島くんの輪郭を捉えることができない。
相当な視力の悪さ。
「…まだ 思い出せませんか?」
あの日もAさんコンタクト外してて、その眼鏡掛けてて…
すごく近づけて写真見てるのに「まだなんとなくぼやけてる!ピント機能が!」ってAさんが言うと
みんなは初老だって笑ってた。
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作者名:もぶ | 作成日時:2017年1月24日 15時