ゆるふわ系(GRE) ページ2
それからやっぱり仕事は手につかなくて。
これ以上やってても無駄だなってたかを括り帰ることにした。
「あ、雨」
ぽつりぽつりと雨粒が顔に当たる。
鞄から折りたたみ傘を出して広げた。
歩き出そうとした瞬間、
「傘忘れちゃった！いれてー」
同期。
結構しつこく絡んでくるから嫌いなの。
飲みの誘いもすごくて。
きっと二言目には雨宿りを理由に飲みに誘われるんだろうな。
「あ、駅前のとこで飲んでかない？俺が出すから！雨も降ってるし止むまで一緒にお店で待っててよ」
今日の降水確率は80パーセント。
そんな中で傘忘れる方が悪いんでしょ？
1人で一生待っとけ。
頭も股もゆるいと思われてんのかな。
だとしたら非常に耐え難い…！
なんだかムカムカしてきて今日こそはぎゃふんと言わせてやる！って振り返ると。
黒い大きな傘が視界に入った。
その傘を差し出すのは他でもない岡本くんだ。
「Aさん、おまたせしました！」
「は？」
素っ頓狂な声をあげる同期。
まてまて、そうしたいのは私の方です。
「今日はAさんが通ってる料理教室の見学に連れてってくれるって約束の日ですよ？忘れちゃいました？」
「あ、ああ。今日だっけ！」
ない、そんな約束ない。
しかも今日はお姉さんと晩ご飯だって言ってた。
「お前料理教室なんて通ってんの？聞いたことねぇーけd…」
「俺の傘で一緒に行こう？こっちの方が広いし。Aさんのを貸してあげたら？そしたら解決しますよね」
黒が、私と岡本くんを包んだ。
私の折りたたみ傘は同期の手に渡る。
「気をつけて帰ってくださいね、雨強くなるみたいですよ！Aさん、行きましょー」
「う、うん」
立ち尽くす同期の手に似合わない赤。
.
「岡本くん、ありがとう」
「No problem.困ってそうに見えたので」
さて、このまま相合傘を続ける訳にはいかない。
コンビニに寄ってビニール傘でも…
「あ、待って！光が迎えにきてくれるんです。だから使ってください」
「え…」
「風邪ひかないように、じゃあまた明日！」
雨の中、すぐに姿は見えなくなった。
スマートな優しさと先輩の言葉を思い出す…
手元に残った岡本くんの傘。
お礼は何がいいかな。
赤くなった顔を隠しながら改札を通り抜けた。
.
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作者名：もぶ | 作成日時：2017年1月24日 15時
