合わないピントの眼鏡越し(Lt.BLU) ページ32
「うん、みんな中島くんのことかっこいいって…」
「みんなじゃなくて、Aさんはどう思ってるの?」
じわりじわり、汗が浮かぶ。
「イケめてると思います…私かっこいい人苦手やねん」
「そっか、じゃあこれからかっこ悪いとこを見てもらえば少しは可能性あるのかな」
「ひ?!」
「あ、電車きた」
かなりの身長差の私達を乗せて地下鉄は動き出した。
心地よい無言。
なんの面白味もない真っ暗な窓の外を左から右、左から右と見送って…軽く目が回った。
「Aさんは東西線ですよね」
「うん、お先に」
もうすぐ乗り換えの駅に着く。
中島くんの目的の駅はもう一つ先。
可愛い笑顔で手を振られて電車を降りる。
彼から初めてのメッセージが届いたのはその日の夜だった。
.
中島くんがバンドを組んでいてドラムを叩けるなんて少しも知らなかった。
サークルの友達に聞いたら彼のバンドは大学内でも有名らしい。
それくらい私は彼のことを知らない。
『今度主催でライブします!よかったら来てください!招待します』のメッセージにはライブハウスの地図が添付されていた。
主催、ってことは中島くんのバンドは結構人気なんだよね?
日時と時間を確認するため何度も何度もトーク画面を見返す。
ちっとも落ち着きがない、挙動不審。
ドキドキを抑えてライブハウスに着いた。
名前を伝えるとパスを渡されてスタッフのお兄さんの後を着いていく。
「こんにちは!ゆーとのお客さんかな?ゆーと!」
突然話しかけられた愛嬌たっぷりキラキラ笑顔のお兄さん。
私の返事を聞かずにとんとん話を進めて勝手に中島くんを呼んでしまった。
「あ!来てくれたんですね!ありがとうございます!!」
中島くんはメンバー?の背中をさすってる。
というかすごく体調悪そうに、えずいた…
「お、おえぁー」
「気にしないで!ひか本番前いつもこうだから」
.
ドリンクを交換してはたと気付いた。
何か差し入れを持ってきたらよかった…
会場には徐々に人が増えてきて幕の向こうでは楽器を調整する音が聞こえ始める。
もう間もなく。
そして私は答えを探した。
探しては何度も辿りつく答え。
『俺Aさんの元彼のこと、知ってます。初めての彼氏で、すごくかっこよくて、』
会場の明かりが消えて、開演。
真っ赤なライトが照らすステージ。
1番手のバンドが出てきた。
『すごくだめなやつだったって』
そう、すごくだめなやつだった。
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作者名:もぶ | 作成日時:2017年1月24日 15時