#06 ページ7
お酒はとうに抜けた。
私がゆっくりなのか、それとも中島がゆっくりなのか。
こんなんじゃ全然家につかない。
「とにかくそこの会社の部長がさ、大食漢でまじでひくの。どこに吸い込まれてんだよってくらいに次から次に。思い出しただけで気分悪くなるわ」
「へえ。てか接待とかすごいね」
「全然。楽しいって思ったことないしね」
「そういうの向いてそうなのに」
ぽつりぽつりと並ぶ街灯に照らされた中島の整った横顔はどこか疲れて見える。
もしかしたらこれは、中島なりに溜め込んだものを吐き出してるのかもしれない。
そつなくこなしてるけど、だからってなんともないわけじゃないよね。
私は過去に中島が背中を丸くしている姿を1度だけ見たことがある。
もしかしたら泣いてるのかもって思ってハンカチを差し出せば「そんなんじゃねえ」って鼻をすすりながら立ち上がった中島の背中はもう丸まってはいなくて…
「負けず嫌いなんだね」
「は？何が？」
「あ、ごめんこっちの話」
私はそんな少し弱った姿を見られたことに嬉しく思ったっけ。
「少し寄ってく？話聞くよ？」
「え」
「こういうのって同期じゃなきゃあんまり話せないでしょ。私口堅いし！」
私が口元に指でばってんすると中島はおかしそうに笑う。
「そういう奴ほどぺらっぺら喋りまくるんだよなー」
言いながら楽しそうに笑う中島を見て私までなんか嬉しくなって意気揚々とたどり着いた家の玄関。
鍵どこだっけなーってガサゴソしながら「まじでいいの？」って私の後頭部に向かって話しかける中島。
「え、なに今更。どゆこと？」
「いやお前、彼氏とか…」
「あった！…やっと鍵見つかった」
鍵をドアノブに突き刺そうとした時、勝手に開いたドアにおでこをぶつけた。
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作者名：もぶ | 作成日時：2020年2月3日 12時
