夜景#15 ページ18
慣れないなぁ、このパンプス。
いつもは高くてももう少し太めのヒールだからある程度の安定感はある。
見上げた煌びやかな建物。
腕時計で時間を確認して私は一歩踏み出した。
「気分が乗らないなら来なくてもいいよ」
そういって優しく笑った中島を思い出して居心地悪くクラッチバッグを持ち直す。
磨きぬかれたエレベーターの扉にうっすらと映るのは、普段じゃなかなかお目にかからないハーフアップにした私の姿。
軽くグラデーションになった紫色のパーティードレス。
首元のレースがなんとなくチクチクしていたたまれない。
なんかそわそわして何度も足元を確認した。
苦手だ。こういうの本当に無理。
そうだねぇ…気分が乗らないという理由でパスするのは憚られるし。
クラッチバッグのスマホは通知を知らせる点滅があったけど私はそれを無視してエレベーターを降りた。
エレベーターを降りてすぐ、目の前。
夜景が目の前に広がる。
すごい、、綺麗。
こんな簡単な感想で済ませてしまうのは申し訳ない程。
夜景で感動するのって初めてかも。
人工的な明かりってどちらかといえば眩しい感覚に近くてこんな風に綺麗だなんて思えなかった。
私が普段生活してる東京とは思えないくらい。
やっぱり来なければよかったかも。
見慣れた背の高い後ろ姿を探す。
「Aちゃん！」
突然掴まれた右手、忘れようと頑張った独特のあの声。
「慧、くん」
「って、、きい、て。あの、」
肩で息をしすぎてなんて言ってるか分かんない。
うっすらと額に汗が滲んでる。
軽やかな生地の7分袖のシャツがゆらゆらと揺れて、
「伸びたね」って雑にタオルドライしてあげてたあの頃よりも短くなった髪。
あぁ、彼が私の部屋に帰ってこなくなってもうそんなに経ったのか。
とにかく慧くんが私に伝えたいことがあるなら落ち着くまで少し待とう。
ふらふらと視線をさ迷わせた私は結局ラウンジに入ることにした。
「ちが…！行かないでっ」
「へ？」
「だって、」
「え、ちょっと座って落ち着いて…」
「やだ！」
「なんで」
「なんでも！やなもんはやだ！」
髪をかき乱しながら首を振る。
「え…」
「もう、いやなんだよ…」
なんで慧くんはラウンジの前でイヤイヤ期の子どもみたいに駄々こねてるのかって、
でもそんなことよりも慧くんから流れてきた香りに心臓が止まった。
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作者名：もぶ | 作成日時：2020年2月3日 12時
