最後#11 ページ14
どことなくそわそわして、心臓のあたりがこそばゆい。
慧くんはもう待ち合わせ場所に着いていて、私ももちろん着いている。
それでもまだ声をかけられないのは中島の言葉がまだぐるぐると回っているから？
それとも。
慧くんはスマホに夢中でちっとも私のことに気づいてくれない。
ゲームしてるのか、ニュースでも見てるのか、誰かと連絡とってるのか。
「…おまたせ」
「お疲れ様！もー、Aちゃん遅いよ。腹ぺこなんですけど」
「ごめん、乗り換え間に合わなくて」
鼻先を赤くして、ぷくっと頬を膨らませた慧くんは全然怒ってるように見えなくて、それがまたいじらしい。
「いいよいいよっ急いできてくれたなら許す」
そう言って私の左頬を摘んだ。
細く華奢な指先まで氷のように冷たい。
それほど待たせてしまったんだ。
そう言えば、今朝天気予報士が夜はかなり温度が下がるとかなんとか。
もっと早く声かければよかった。
慧くんに寒い思いさせちゃった罪悪感が私の足を余計に重くする。
「あー、まじでぺこぺこ！早く行こう」
見慣れたスーツ姿がいつもと違うのは羽織っているグレーのコートのせい？
いつもはすぐにお風呂入ってすぐにスエットに着替えちゃうから。
慧くんは慧なんだけど、慧くんのようで慧くんじゃない人みたい。
「ここからそんなに遠くないし席も予約しといたからね。……Aちゃん？」
「ん？」
「いや、なんかいつもと違うね。具合悪い？」
「…そんなことないよ」
ここは「うん、ちょっとしんどいかも」って答えた方がまだ信憑性があったかもしれない。
前を向いていた色素が薄めの茶色い瞳が私を捉えた。
瞳の中の私はゆらゆらと揺れているみたいに見える。
私は、この人が好きなんだ。
自覚すれば簡単で。
今まで頑なに何がなんでも友達でい続けようとした自分がひどく稚拙に感じた。
でも、今更どうにもできない。
伝えるつもりもない。
「震えてるよ」
「そっちこそ」
「いや俺は平気。こう見えて筋肉だってあるし」
「なに。私が贅肉だらけって言いたいの？」
「ふはっ！なんで喧嘩腰よ」
「なんでも！」
「かーわいっ」
いつもどんな風に話してた？
どんな風に笑いあってた？
若干の居心地の悪さを感じてるのはきっと慧くんも同じ。
頭を振って前を見た。
これくらい冷えてる方が顔の赤みの言い訳ができるかもしれない。
すると右手に暖かな体温を感じた。
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作者名：もぶ | 作成日時：2020年2月3日 12時
