中断#8.5 ページ13
ゆったりとした朝。
フレックスタイム制をとってる俺の会社はコアタイムという時間帯にさえ出社していればいい。
仕事が押して忙しい時期以外は朝のラッシュ時刻を外してる。
あんな人混みに飛び込むことは絶対にしたくない。
スマホの中で今日のスケジューリングをしながら、少しだけ温度がさがったマグカップを手に取った。
湯気をふぅふぅとしながら飲む熱々のカフェオレもいいけど、これくらいぬるいやつも好き。
どたばたと急いで家を出ていったAちゃん。
あの日作っていった味噌汁を気に入って頂けたらしい。
俺料理ってできないけど、味噌汁くらいなら作り方も知ってるし
しじみの味噌汁が二日酔いにいいことは周知の事実。
ただもう今日は買い物に行く時間はない。
家にある材料でぱぱっと作っていこう。
あれなんだよね、お酒飲んだあとはほんの少し薄めがいいんだよね？
空っぽになったマグカップをシンクで洗って食器棚に戻す。
Aちゃんのが白、俺のが青。
ここに来てからすぐに買い足された。
「別にあるものでいいよ」って言ったけど、それじゃ失礼だからって…。
本当に律儀な子。
バスタオルも、枕も、夏用のブランケットも、冬用の毛布も、ちゃんと『俺専用』っていうのが嬉しかった。
Aちゃんの中にちゃんと俺っていうアイデンティティがあって、そこが曖昧な線引きじゃなくて、確固たる存在が明白になっていく。
野菜室からしめじを取り出す。
しめじってさ、下のくっついてる部分を切るとかなり短くなるのって俺だけ？
合ってるのか合ってないのか…
とりあえず水を張った鍋に放り投げた。
おいしくなーれ。
おいしくなーれ。
おいしくなーれ。
ぐるぐるとおたまでかき混ぜて…
帰宅後にここで2人で味噌汁を飲む想像をしたら、なんか笑えてきた。
俺、すごく嬉しかったしすごく安心した。
Aちゃんが会社の同期の人を家に連れてきたから怖かったけど
でもあれから出ていけとか言われないし。
もしあの二人が付き合ってたとして……
この家、出ていきたくないな。
なんて無理だよね？うん、それはさすがに無理だ。
でもまだ俺は聞けずにいる。
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作者名：もぶ | 作成日時：2020年2月3日 12時
