友達#01 ページ1
「全然生活感ないですね」
「そう?」
「人間らしい暮らしをしていない人の部屋って感じ…」
「…って言われた。会社の後輩なんだけど、資料がどうとか言って無理やり家まで着いてきといてさ」
「生活感、はないと思うよ」
「そう?」
俺あんまわかんねーわ。と呟きながら筑前煮を頬張る。
そりゃそうでしょ。
私は実際に家には行ったことないけど、
あなた1年のうち359日くらいを私の家で過ごしてるんだから。
「ああ、だから今日は遅かったんだね」
「へ?」
「…ん?」
「俺そんなに遅かった?」
「あー…いつもより、は」
「へえ」
びっくりしたような、なんとも言えない目で見つめられて少しだけ居心地が悪い。
これじゃまるで私が慧くんの帰りを待ち望んでるみたいだ。
筑前煮の筍の咀嚼音だけが響く部屋。
こんな時、時計はデジタルじゃなくてアナログにするべきだったと後悔する。
眠れない夜には秒針の音が厄介な癖に。
この世の中は常にないものねだりなんだ。
これすなわち、諸行無常である。
隣の芝は青く見えるもの。
程なくして、テーブルの料理に夢中になった慧くんの顔を見ないようにして洗い物を片付ける私。
犬は可愛い。
できれば今すぐにでもペット可物件に移り住んで一日中愛でていたい。
…って。…あれ?今なんの話してた?
_______________
「Aさあ、今彼氏いないんだっけ?」
「はあ?なにそれけんか売ってんの?なら買うけど」
私がわざとらしくファイティングポーズをとると真顔でため息を吐かれてもっと虚しくなった。
「じゃあソフレ、って言葉は知ってる?」
「聞いたことはあるけどあんなの絶対うそでしょ。あんまり下衆なことは言いたくないけど、いくとこまでいってるよね」
友達経由の友達のくせになんか妙に居心地がよくて、知念とは最初から自然体で話せる。
多分お互い人見知りだからかもしれない。
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作者名:もぶ | 作成日時:2020年2月3日 12時