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一瞬にして体がぐらついて、人の波に溺れた。
視界の隅にはびっくりした顔の大貴。
最後、少しだけ笑った気がする。
気がする、っていうのはほんと一瞬で大貴が見えなくなったから。
私の右腕は強く強く引っ張られて…人と人にぶつかりながらそれでもなんとか会場の隅っこに到着した。
息がつまる。
肩で息をしながら右腕を辿る視線。
「圭人…？」
「久しぶり。Aちゃん」
･･･
関係者以外立ち入り禁止。
そんな張り紙の向こう側。
え？
なんで君がここにいるの？
ステージでチューニングしてたんじゃなかった？
「ああ、あれはローディーがやってるの。ドラムもベースも俺らメンバーがやってるわけじゃなくて」
にっこり笑いながら解説してくれた。
たしかに幕が開いてるわけじゃないからステージに誰がいて、どんなチューニングしてるかとかは分からないけど。
本人達がやってるもんだと思ってたから。
会場だって、それで盛り上がってたんじゃないの？
そんなことを悶々と考えながら、熱い熱い右手から意識を剥離した。
「ねえ、どこまで行くの？私、大貴と来てて」
「分かってるよ。でももう会場には戻れないから。ここでステージ見ててもらう」
通されたのは楽屋、みたいな。
そこにポツンと白いソファ。
ソファの前にテレビモニター。
「え…でも、大貴が…」
「それはごめん。でもほんともうあの場所には戻せないから別々に観て」
少しだけ変わった。
可愛かった圭人の横顔。
今はなんだか別人みたい。
「…来てくれてありがとう」
「うん」
「圭人、嬉しいよ」
「うん」
「引越しした時、ちゃんと挨拶できなくてごめんね。事務所の意向で…俺全然知らされてなくて。今日からここに住んでって、いきなりで、あの」
「わかった、わかったよ」
変わったけど、変わってないところもやっぱりある。
俯いた圭人。
「もうそろそろ時間なんじゃない？」
「うん、」
「頑張ってね」
「でね、あのさ。ここにいてくれる？」
「へ？」
「また、黙って帰らないで、ここで待っててくれる？」
圭人は私の返事を聞かずに部屋を出ていった。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
