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おとなりさんは芸人ではなく大学生のバンドマンだということ。
帰国子女だから少し前に流行った芸人さんのことはさっぱり分からないということ。
冷やし中華を知らないこと。
「冷やしチュー科」だと思っていたこと。
(だいたい、冷やしチュー科ってなに？冷たいネズミ？)
どんなに検索しても元ネタが出てこなかったこと。
これがこの1時間でわかったこと。
「Aちゃん、ほんと助かった！ありがとう！」
「いえいえ」
「それにこんな美味しいお菓子まで」
「いーのいーの。それ実家から大量に送られてくるやつだから」
「おいしいよ、この魚の骨！」
こちらこそこんなものしかなくて恐縮です…
バリバリとうなぎボーンをつまんでニコニコしてるイケメン圭人くん。
バンドマンで帰国子女で英語ペラペラで、笑顔がさわやかで優しくてって非モテ要素が一個もないな。
「なんでこっちに帰ってきたの？」
「本格的に音楽やりたいから」
「へえ」
「日本の友達とネットでずっとやり取りしててデータ送りあって曲作ったりしてたんだけど、時差がめんどくさくなって来ちゃった」
『来ちゃった』って。
もしかして、おうちも相当なお金持ちなんじゃ？
「で？なんでこの曲を練習してるの？」
「バンドとは別でセッションをやるんだ」
「せ、せくしょん？」
本格的な横文字は聞き取れません、純日本人です。
「セッションっていうのは、他のバンドとメンバーを入れ替えてやることだよ」
「あ、セッションね」
「そう！session」
バンドセッションでお笑いのネタをやるってポテンシャルがすげーな。
私はそんなことを考えつつ、圭人くんにおかわりのアイスティーを注ぐ。
パソコンに集中してる圭人くん。
同じとこを何回も繰り返してコードを確認しながら弾いてる。
すごいなぁ、ギタリストって。
長い指が迷うことなくスラスラとアコースティックギターのネックを滑る。
惚れ惚れしながら指を見つめていると
「ぐす、ぐすっ…ぐす」
な、泣いてる？！？！
「え。どうしたの？どっか痛い？」
「ぐす。ご、ごめ…。なんかこの曲、切なくて…。これほんとにお笑い芸人さんのネタなの？全然笑えないよ、すごい壮絶なヒューマンストーリーだよ」
なんというか…圭人くんの感受性に脱帽。
これが非凡人の音楽家ってやつなのかもしれない。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
