オレンジと緑 ページ28
しとしと。
ざあざあでもないし、傘を差すまでじゃないかなってたかを括ったら結構濡れた。
雲の隙間からはほんのりと青空が見える。
あれ、虹が見える天気ってどんなんだっけって思ってぐるりと見渡してみるけど
考えるのが面倒くさくなってすぐにやめた。
「おつかれ」
「大貴。おかえり」
「ただいま」
ふんわりと大貴の匂いを感じてなんとなく安心した。
ここから先は同じ帰り道だし、別々に歩くのも変だし…
2人おんなじペースで歩く。
「なんで傘ささねーの？」
「ささなくてもいいかなって」
「え、結構濡れてるけど」
「大貴はなんでささないの？」
「え、俺が傘もって出歩くタイプだと思ってんの？」
「思わないね」
「うん、忘れたよ忘れた」
「家に忘れることもあるし、出先で忘れることもあるよね」
「そう。ドローンの傘とかできればいいのになー。持ち歩かなくてもさ、頭の上をふわふわーって浮かんでてくれたら楽じゃね？」
「そんなやつネットニュースで見たことある」
「まじか。買おかな」
本気で思ってるのか思ってないのか。
いまいちよく分からない顔で私の傘を見つめた大貴。
「とりあえず、Aは傘持ってんだから差そっか」
相合傘になるしやだよ。
返事が出来てたかわかんないけど光のスピードで私から傘を優しく奪うとオレンジ色が広がった。
付き合ってた頃、雨が嫌だって駄々こねた私に大貴がくれたこの傘。
『Aあれでしょ。雨の薄暗いのが怖いんでしょ。だったらこんくらい明るいやつ差しちゃえば平気だよ』って。
雨が嫌いな理由は見当違いだけど、未だに使ってる。
大貴が自ら選んで買ってくれたプレゼントってあんまりないから。
大貴はさりげなく私が欲しいものを聞き出すのが上手くて。
オレンジに包まれながら肩同士が触れる。
「聞いた？」
「んー？」
「来月、メジャーデビューのミニアルバム出すってさ」
「へえ、知らなかったよ。圭人頑張ってるね」
「……お前らさ、なんかあったの」
私が欲しいものをそれとなく聞き出すのは上手いくせに、デリケートな問題に愚直なのは何故…？
逆にそこらへんをオブラートに包んで欲しいんですけど。ね。
気づけよ、って肩を少しだけ押すと押し返された。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
