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圭人も何か飲むかな？ってマグカップを探したけど見当たらない。
「めちゃめちゃハードロック調だよ。聞いてみる？」
「全然『シチュー(仮)』じゃないじゃん！」
パソコンの前で手招きしてるから私はやんわり断った。
あれ？そういえば、なんか甘い匂い…
パソコンの横には圭人のマグカップ。
「今ね、圭人もココア飲んでたんだ」
私の視線を読み取ったのか、にっこりと緑色のマグカップを持ち上げた。
お湯が沸いて電気ケトルのボタンがぱちんと鳴る。
「圭人ってココア飲まなかったよね？」
「Aちゃん来た時に絶対ココアいれるでしょ？だから」
"だから"の意味がよく分からないけど、なんだかいたたまれない気持ちになって圭人から目をそらした。
なんでこの子はこんなにも私の気持ちをぐちゃぐちゃにさせるのが上手なんだろう。
私はお姉ちゃんなのに。
・・・
・・・
「あの、ちょっといいですか？」
ライヴ終わり。
今回もパスをもらったから、会場のお客さんが少なくなってからひっそりと地上に上がる。
「え、私ですか？」
目深にかぶったキャップ。
そのキャップから覗くのは脱色された白色に近い髪。
一目でわかった。
"Hikaru"くんだって。
圭人と同じバンドのベーシストでリーダーの彼。
大き目のサングラス姿で表情はわからない。
でもきっと、
「ちょっと、だけ。あの、話、」
ステージの上のかっこいい彼とは少しだけ違って可愛い印象だった。
人目を避けてビルの間をすり抜けたHikaruくんに着いていくとそこには寂れたコインパーキング。
「Aさん、ですよね」
「はい…」
「あ、そんなに身構えないで。それに俺らタメだし」
サングラスを外したHikaruくんは申し訳そうな顔で私を見上げた。
「ライヴに足運んでくれてありがとう」
「いえ、今日はパスもらったし、毎回チケット買ってるわけじゃなくて…。売り上げ貢献できなくてすみません」
「あ、いいのいいの！聞いてくれるだけでありがたいっつか。
でね、俺ら、今めっちゃ大事な時期なの。圭人からも聞いてるでしょ」
「はい」
Hikaruくんの表情から『ありがとう』と『ごめんなさい』が聞こえる。
・・・
・・・
「圭人」
「ん？」
「…ごめん、仕事が忙しくなりそうで」
「…」
「次のライヴ、せっかくパスもらえたんだけど」
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
