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やめて！それ以上掘り下げないで！
むせて呼吸困難に陥りながら大貴に念じるけど知らんぷり。
「歌詞カードみたいなのなんにもついてなかったけど…ボーカルがさ、なんてゆーか、聞き取りやすい子でしょ。だから」
「……あ、やっぱ嫌かな、自分の彼女のこと歌われたら」
「別にいいんじゃない？Aは彼女じゃないし。彼女だったら嫌だけど」
「へ？」
「…なに？」
「彼女、じゃないの？」
「Aから聞いてるんじゃねーの？」
「でも、あの、ついさっきさ。抱き合ってキスして」
抱き”合って”ない！！！！
まして”キス”なんてもっとしてない！！！！
語弊がありまくるのなんとかして！
いたたまれない。
そのままシャワーでも浴びようか。
バスタオルを掴んだ瞬間、
「Aちゃんはちゃんと有岡くんのこと好きだと思う。なんて言えばいいのかな、圭人にとってAちゃんはお姉ちゃんであり妹なの」
磨りガラス越しの声。
さっきの会話より若干小さく感じる。
「日本に来て、大学行きながら音楽活動やって。仲間はいるけど…なんていうか心細い時がある。
そんな時に出会えたのがAちゃんだった。Aちゃんと有岡くんがおとなりさんで良かった。
だから、だから…」
「圭人、もういいよ」
「お願い、ここから出ていかないで…」
今度こそ、私はバスタオルを抱えてお風呂に向かった。
できるだけ足音を消して。
シャワーの音でバレるとは思うけど、だからこそ今の会話は聞いてませんよ、ってことにして。
シャワーなんだか涙なんだかよくわかんない。
そうか、私は彼にとって姉弟みたいなものだったんだ。
抱き締めてくれたり、私の話に一晩付き合ってくれたり、
ライヴ中に怒られるかもしれないファンサービスをしてくれたり…
だから、いろいろと勘違いしちゃったよ。
そうだった、最初からそうだ。
『Aちゃんって、なんか妹みたいな、そんな感じ』
それなのに、私ってばばかだなー。
『Aちゃんはちゃんと有岡くんの事好きだと思う』
『ここから出ていかないで』
騙された、とは思わない。
「Aー？風呂入ってんの？」
「シャワーだけ！すぐ上がるよ！」
「ん」
でも、まだもう少しだけ。
いろいろな勘違いをちゃんと洗い流さなきゃ。
もう二度と彼の前に立てない気がするから。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
