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何度も無視しようとして、それでも何度も掛かってくるから仕方なく電話を取った。
『びっくりしたよ。打ち上げに来るかなって思って。スタッフにAちゃん呼び止めてもらうはずが”そーきゅーに帰った”って言われたから』
「ごめん」
『ううん、それは全然いいんだけど。何かあった？』
「そういうわけじゃないよ。圭人くんこそ何か…ううん、なんでもない」
あの女の子、古株さんなのかな。
『今まであんなファンサービス1度も見たことない』って言ってた。
メンバー繋がりの子なのかも。
どうしよう。
そんな思いで急いで逃げ帰ってきた。
「ねえ、今日関係者向けに渡したCD。Aちゃんももらったよね？」
「うん」
「聞いたら感想聞かせて欲しいな」
「え」
「まだ綺麗になってない音だけど、新曲なのね。今までのバンドの感じと少し違うんだ。だから、Aちゃんの感想が欲しい」
「わかった。聞くね」
「ありがとう！じゃあ、また！」
バッグの中、雑に突っ込まれていた簡易的な薄いケースに入ったCDをパソコンへ。
歌詞カードも何もついてない。
『Insomnia sample2』とだけ白いCDにプリントされてる。
・・・
かちゃ、
「ただいまー。A？」
「…」
「…ねえ。あ、音楽聞いてんの？イヤホン外すよ？……A、俺飲みに行ってたんだけどさ、これ、コンビニで見つけたんだよね、A好きでしょこのプリン」
「おかえり…ありがと」
「なに泣いてんの」
「泣いてない」
「うそ。鼻まっか」
「泣いてないって！」
「…そのCDなに？」
すごく綺麗だった。
ミキサー？とかそういうのがまだだから？
『綺麗な音じゃない』って圭人くんは言ってたけど。
旋律が、歌詞が、世界観が、確かに今日のライヴでは聞かなかった部類の綺麗さ。
音楽のことよく知らない私が泣けちゃうくらいに、素敵な曲だった。
大貴を振り払ってキッチンに向かおうとすると後ろから抱きしめられた。
「涙も笑顔もAの感情全部俺に向けて欲しいの。俺が言ってることわかる？」
「…どゆこと？」
「なんで圭人にできるのに俺にはぶつけてくんなかったんだよ」
何も言えない。
かと言って今振り払ったらそれもだめな気がして。
「ねぇ、お願いだからなんとか言って」
「…」
「うんとかすんとか、好きとか嫌いとか、なんだっていいから…」
アルコールの匂い。
唇に微熱。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
