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「だって今Aと飯なのに」
ぽろりん、
まるでおむすびころりんみたいに。
お箸から焼き魚がぽろりんと零れ落ちた。
「え」
「え」
「…いま、なんて」
「あれ？俺今へんなこと言った？」
おもいっきり言った。
スマホいじりっぱなしで話も目すら合わせないでご飯食べてたくせに。
すっごく耳を疑う。
でも当の大貴は知らんぷり。
カウンターの向こう、白いタオルを被ったここ『居酒屋隠し包丁』の店長も見て見ぬふり。
「あ、うまいねこの魚も」
大貴の話が全然頭に入ってこない。
いきなりどうしちゃったんだろう。
電話にも出ない、スマホいじらない、変なこと言い出す。
ぶぶー、ぶぶー、ぶぶー
圭人くん『寝すぎちゃったー(顔文字)今起きたよ(泣き顔)』
テーブルの上に放置してた私のスマホが震えた。
ぶぶー、ぶぶー、ぶぶー
圭人くん『Aちゃんはあれからちゃんと休めた？』
ポップアップに圭人くんの通知が並ぶ。
圭人くん『また圭人の家遊びに来てね！』
「やーっぱりな」
「へ」
頬杖ついて私のスマホを見つめる。
あ、やば。
やばい？あれ？なんでやばいの？
別に大貴に後ろめたさなんて抱える必要ないのに！！！
「圭人と仲良いね」
「…」
「ライヴ観て好きになっちゃった？」
「…」
「あれだよね、ギターかっこいいよね。俺も楽器やるならギターがいいな。目立つし、もてそうじゃん」
「大貴」
そんな言い方やめなよ、大貴らしくない。
私はお箸を置いた。
「…俺じゃだめかな」
「は？」
「だから、Aの彼氏、俺じゃだめなの？なんで俺振られた？飯中スマホいじるから？友達優先するから？仕事の休みが不定期だから？Aと予定合わせらんないから？」
「ちょ、ちょっとまった」
「そもそも何が『もう無理』だったの？俺ちゃんと理由聞けてねんだけど」
「だから、待ってよ！」
「俺のなにが無理だった？直したら、また、付き合える？」
頭がぐちゃぐちゃになって、カウンターの向こうを見た。
…もうそこに店長の姿はない。
無理だったのは私の心。
大貴に合わせることがだんだんしんどくなってきたから。
でも大貴は一言だって「俺に合わせてくれ」なんて言ったことはない。
単純に、私の問題。
自分勝手に大貴に尽くして、それに疲れちゃった。
大貴はちゃんと優しくて、ちゃんと私を思っててくれたのにね。
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作者名：もぶ | 作成日時：2018年4月8日 15時
