★★★ ページ9
迷うことなくタクシーが向かうのは大ちゃんのマンション。
当たり前か、彼は私のマンションを知らない。
もつれ合うように部屋になだれこむ。
お酒と大ちゃんの香りに酔って何がなんだかわからない状態。
足がもつれて無重力を一瞬感じれば、いつも通りベッドの上に仰向け。
私をベッドに縫い付ける大ちゃんをぼーっと見上げていた。
巷でいうオス岡さんはこれか、ってどこか他人事。
「なんで？」
「ん？」
「なんでえーじくんなの？なんで俺じゃないの？」
大ちゃんの口から送り狼になりそびれたバーテンの名前。
なんで？なんで？私の方がなんで？
「今Aいるから大ちゃんもおいで。ってえーじくんからLINE入って」
「うん」
顔を歪めて私の腕を強く掴む大ちゃんに何も言えなくなる。
「どうしていいか分かんなくて。そしたら…大ちゃんが送らないなら俺もういいよね？って」
「うん」
「…遠くからしかだめ？」
大ちゃんは私の腕を離すとゆっくり上から退いて、ベッドに座った。
"遠くから応援してるね"
それは私が最後に送ったメッセージ。
「前みたいに、近くからは、無理？」
「…」
「なんで俺嫌われた？何かした？」
「…」
「えーじくんの方がいい？」
「私に固執するのはなんで？」
ついこぼれてしまった一言が心底驚いたみたい。
目をまんまるにして私を見つめる。
「大ちゃんには彼女いるじゃん。なんでその子と幸せにならないの？」
「A…」
「Aといると楽しいし楽だって言ってくれたけど、もうこんな私は大ちゃんといられない。だって重いもん、楽な存在じゃなくなっちゃった。だってだって、ずっと好きなんだもん」
あの日みたいに…
これが最後って寝てる大ちゃんの指先にキスした日みたいに…
涙がつーっと静かに流れて耳に垂れた。
「だから、もう近くからは無理なの。大ちゃんの幸せのためだよ。ちゃんと彼女と仲良くね」
お酒で気持ち悪くなった胃が今度はきしきしと軋む。
なんとかベッドから起き上がるとふらつきながら放り投げられたバッグを持ち上げる。
「大ちゃん、今までほんとに…」
「ごめん、ほんとごめん。A気づいてたんだね」
「いいのいいの。こっちこそ本気になってごめんね」
言いながらやっぱり惨めで苦しくて、お酒弱くなんてないのに吐きそう。
ふらつく足にできる限りの力を込めて歩き出す。
「俺彼女なんていないよ」
「え？」
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作者名：もぶ | 作成日時：2016年11月22日 21時
