★★★ ページ8
「…なに？俺に惚れちゃった？」
「べつにー」
「あっそ。通りまで歩ける？とりあえず店出るよ」
「あいよ」
よいしょっと。鍵を締めるとくすりと笑ってみせた。
甘いけどどこかミステリアスな彼のファンは多い。
私は中学から一緒だからそこまでときめかないけど、こうやってまじまじ見るとやっぱり美形だしファンが付くのも頷ける。
それにこんな職業だし気も利くし聞き上手な所も女心を掴んじゃうんだろうな。
私の腰をしっかりと抱いて歩き出す。
もう止んでるけどさっきの雨のせいか風が冷たくて震えていると引き寄せる力が強まった。
あったかいなあ。
路地裏と言ってもいい一見分かりづらい場所に位置するバーは大きな通りから離れてる。
それにしてもこいつといてこれだけ無言なのって初めてかも…
なんとなくやりづらい。
「あ、コンビニ寄りたい。水欲しい」
「持ってきたから早く帰ろ」
「あ、ちょっと気持ち悪い」
「ビニール袋も持ってきた」
やばい、頭動かないくらい酔ってる。
「ひゅー用意周到」
「うん。で、家来る？」
「むー？」
「Aん家じゃなくてさ、俺ん家」
耳元で囁かれるそれ。
誘い文句？さすがにそんなことされるとくらっときちゃうよばーか。
「送ってもいいってことは、イイんでしょ？」
アルコールが回った脳味噌が急激に冷却される。
さっきまでリズムよくそれほど意味のなさない会話を続けてたけどさすがに崩れた。
イイんでしょ？って何が？あ、ナニか。
いいよ？別に。
私は頷くだけでいい。
酔った勢いで…って言い訳も効くし多分こいつは後腐れないパターンのやつ。
しかも今日気づいたけど顔もかっこいいし、絶対経験値高いし。
ありがたく利用しちゃおうかな。
寂れた心を温めてほしい、なんて。
あれ？でもこのパターン2回目だ。誰かと一緒…えーっと誰だっけ。
思い出そうとしてやめた。
今思い出したらそれこそ縋りついちゃいそう。
「A！！」
聞き間違えない、彼独特の通る声。
少々息が上がってる。
「A、迎えきた」
「大ちゃん…？」
「大ちゃん久しぶり」
「えーじくん、ありがと。もうここで大丈夫Aは俺が送るから」
「…そ？じゃあ気をつけてね」
早口で捲し立てるように言うと大ちゃんは私のバッグを受け取った。
「A、またな。大ちゃんと仲良くね」
彼は綺麗に笑った。
思い出すのを止めた1回目の彼は大ちゃん。
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作者名：もぶ | 作成日時：2016年11月22日 21時
