cafe au lait (ページ13)

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「もう帰っちゃうんですか？また僕に会いに来てくださいね」

そんな歯が浮くようなセリフだって言える。
だってお仕事だから。
人からの好意にセンサーが反応するとついつい口から出ちゃう。

「えーじくんいけないんだぁ。またファン増やして」

ぽやぽやと笑う彼はテレビの印象とはまるっきり違う。
どっちかっていうと年甲斐も無くはしゃいだり騒いだりしてるイメージだったけど、割としっぽりと飲むのが好きらしい。
オンとオフがしっかりしてんのかなって。
でも素直に喜んだり楽しそうに笑うのは変わらないな。

今日の大ちゃんは忙しなく視線をさ迷わせて落ち着きがない。
「A？」
「えっ」
「連絡いれてみようか？」
「いやー…会えたらでいいんだ」

自分に向けられた好意だけじゃなくて人の感情にも敏感なの。
目に見えないピンク色の矢印が誰に向かって伸びてるかが分かる。

季節は3月。そろそろホワイトデー。
さしずめ先月もらったバレンタインのお返しを律儀に渡したいんだな。

忙しいだろうに、彼は少し時間を作れればせっせと足を運んでくれた。
Aに向けられた矢印が会う度に太くなっていく。
それが素直に可愛いなって思う。

芸能人、しかも大きな事務所で飛ぶ鳥も落とす勢いのアイドルがろくに口説きもしないで好きな女と酒を飲んで楽しむだけなんて。

「はげー、会いに来たよーん」
「…おいお前今なんつった」
「あ大ちゃんいるんだ、お疲れ様」
「マスター塩持ってきて。早くまかなきゃ」

Aは少しも迷うことなく大ちゃんの隣に座る。
まるで約束してたみたいに。
その様子に手をあげて応える大ちゃんもにこにこ嬉しそう。

彼女は独特な間合いがあって、それに惹かれる人は多い。
さっぱりした性格も好印象。

「んぁ？後輩ちゃんから電話だ」

席を立つAを追いかける視線。
ピンク色の矢印。
ただひとつ、気になってること…突っ込んでみていいかな。

「大ちゃんさ、彼女いんの？」
「へ？」
「大ちゃんもピコピコ鳴ってるけど全然出ないから仕事じゃないんだろうなって。俺の憶測は女関係」

あ、別に週刊誌に売るわけじゃないよ？大ちゃんとはもう友達の域だしそんなこと絶対しない。

「…なかなか、切れないもんだね」
「終わらせたの？」
「しっかり終わらせたいの」
「ふぅーん。でも今日渡すんでしょ？ホワイトデー」

おろろろろ、また視線が右往左往。
なんで知ってんの？って？

また素直に全部顔に出る。