【呪術廻戦】呪われた世界の片隅で３ (ページ19)

今日:1 hit、昨日:5 hit、合計:46,058 hit

第１０５話俺か、俺以外かページ19

.

「領域展開＿＿夢魘幻劇(むえんげんげき)」

フワッと広がった歪な光景が自身で作り出したものだという驚きは不思議と無く、微かに香った花の匂いと美妙な景色に目を細め、自我肥大の万能感に支配されてる事もあって酷く心地が良い。

そのせいか、腹部への不自然な重力からの解放と、私を堂々と踏み付けていた呪霊が消えている事実に気付いたのは少し時間を置いたあとだった。

消えるなんてそんなバナナ、と低脳な洒落を携えながら自由を手にした身体でむくりと起き上がり周囲を観察すると、意外にも直ぐ傍で蹲って震える塊を発見。

容姿から見て、あの呪霊だった。

つい数秒前までは私を踏み付けて典型的な不快感を与える笑みを溢していたというのに。今は何かに怯えて震えるばかり、此方を振り向くどころか私に気付いているのかも分からない可笑しな様子である。

「この距離での反撃なしは引くわぁ……」

私が作り出した私の領域、私の世界に立って息をしているだけで、何もかもが初めてな癖に全てが手に取るように分かってしまう奇妙な感覚。

私の神は私だ、との厨二が自身の尊大な過大評価ではなく唯の事実としてそこにはあり、同時に確かな全能感が流動的に全身を巡っていた。

巡る私の記憶によると、この空間は領域内の対象が本質的に抱えている心理的外傷＿所謂トラウマを記憶から引っ張り出し、場合によっては作り、相手を外部からではなく内側から破壊する悪魔の世界だった。

それは入った瞬間にオートで発動するらしく、攻撃が必中になる空間なら私の幻も難なくフル活用出来ると思ったのだが…あの様子では必要なさそうだ。

…そりゃ対象もあんなになって怯え震える訳だ。一体何を見させられているのやら。

「本体じゃないと攻撃出来ない。私とおんなじだね」

相手に聞こえているのか、そもそも理解出来ているのかも最後まで分からなかったので飽くまで独り言として呟き、昔の首斬り役人のように無抵抗な相手を見下ろしながら一太刀を落とした。

人間の負の感情から成るとはいえ、呪霊も悪夢からの解放で楽になれたことであろう。自身の誰に対してでも待ち合わせる平等な優しさに惚れ惚れしてしまう。

.