第９８話 呪術師の本懐 ページ12
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電話の内容こそ聞き取れなかったけれど、ぼんやりと聞こえた電話越しの控えめなトーンがよくお世話になる伊地知さんだと気付き、伏黒が電話を終えた傍らで何故？と率直に疑問視する。
釘崎「なんで伊地知さんと話してんの？」
「…何かあったってこと？」
虎杖「津美紀の姉ちゃん無事だったか？」
伏黒「問題ない。それより任務の危険度が上がった。この件は他の呪術師に引き継がれる」
私達それぞれの問い掛けに伏黒は電話で話したのであろう内容を端的に述べて回答し、更には「お前らはもう帰れ」とまで促してきた。
まさかの不完全燃焼で終了した任務に対し、これまでの努めと結果が釣り合っていないと不貞腐れるも、二人を無事届け終わった新田さんの車へ半ば連行される形で背中を押され、無理矢理乗せられる。
虎杖「お前らって、伏黒は？」
伏黒「俺は武田さんに挨拶して帰る。ほら行け！！」
胸のつかえ感が否めないまま、とうとう伏黒を残して車は発進してしまい、為す術も無いので仕様が無く後部座席に背を預けた。
理性的で冷静な彼は姉の危機を知っても普段と変わらず静かで、心の平静を失っていることは手に取るように分かったけれど、彼の心中など他人に計り知れるものではない。
大切なものは見えにくい、なんて言葉を何処かで聞いたが、確かにこの暗い呪われた世界に足を突っ込んでいると嫌でも人の生死が霞んでくる。
「……痛いのは、もっと嫌だよなぁ…」
それでも唐突に訪れる断腸は、傷口を抉られるような痛みは、そんじょそこらの薬で治せやしないのだから抱えて歩くしかなくて。人間の面倒臭さに呆れて現実逃避する事もしばしばだ。
…そんな風に嘆いても世界にとっては些細なことで支障無く廻ってしまうのだろうし、逆に世界に振り向いて欲しい等と大層な理想を掲げて反抗声明したい訳でもないのだが。
ならせめて、せめて。矛盾だらけの曖昧なこの世で悔いが残らないように。大切な人と隣で笑い合える明るい明日が迎えられるように。
精一杯に今を足掻いて生きていくしか道はないのだと思う。私も、一人で先走った彼も、みんな。
私からすれば呆れる程につまらなく、且つ案外読めやすい彼の悔いが残らない選択によって、私の、私達の悔いが残らない選択は、もう既に決まっている。
これまた、呆れてしまうほど青臭いのだろうが。
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第９９話 仄暗さ掻き消す青春という名の光→←第９７話 染み付いた情緒
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作者名：柊ひな | 作成日時：2021年2月26日 21時
