【QK】ターコイズの海に溺れて。【短編集】

星の舟。[山梨県支店]＿sgi＿ ページ45

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山森さん、山本、こうちゃん、ふくらに猛推しされて向かったのは、『星の舟』という喫茶店だった。

最初は興味本意だったけど、店の前に来た瞬間に、早く入りたくて足が勝手に動いた。

理由はわからない。

たまたま山梨で学会があったから来てみただけだけども、なんだか心が惹かれた。

ガチャ、とその店のドアが開いた。

ブラックボードのメニューを出しに来た店員さんのようだ。

「...お客様、ですか？」

「あ、はい」

「ふふっ...どうぞお入り下さい」

彼女は眼鏡のブリッジを押し上げると、先に店の中に消えた。

追いかけるようにドアを開ける。

「星の舟へようこそ。何名様ですか？」

「一人です」

「かしこまりました、お好きな席へどうぞ」

黒縁の眼鏡が映える白い肌。

店の雰囲気もそうだが、彼女にも惹かれつつあることには自分でも気づいている。

雲を模したクッションの椅子に座る。

まだ昼前だからか、客は俺一人。

ゆらゆら揺れる小さな天体模型が、時を遅く流していく。

「ご注文がお決まりになりましたらベルを鳴らしてお呼びください...ふふっ」

さっきからずっと笑われている。

俺の顔に何か付いているのだろうか？

まあわからないことはどうしようもない。

ベルを鳴らして注文を伝え、改めて店を見る。

星の舟、と言っているからか、壁には星座の形に画鋲が刺されたコルクボードや錨がぶら下がっている。

しばらく繁々と眺めていたが、やがて注文の品がやって来た。

コーヒーとショートケーキ。

皿には蠍座がプリントされていた。

「ふふふ...」

「...俺、なんか面白いとこでもあります？」

「んふ、そういうわけではないんですよ。ふふふふ、あははははっ、ただ、貴方の書いた本を持っているので、不思議な感じだなぁと」

彼女がカウンターから出したのは『QuizKnock Lab』。

「私、一応研究者なので」

すっと名刺を渡された。

ありがたく頂戴して、お金を払ってマットを踏む。



「またのご乗船、お待ちしていますね」



さぞ楽しそうな声が背中にかかる。



ここは、氷山も叩き割る星の舟。



名刺の裏に書かれた連絡先は、そういうお誘いと受け取っても良いだろうか。



*



『星の舟、山梨県支店店長、雛菊』
『○○大学○○研究室○○号室長』
『###-####-####』
『蠍座は、気になる人にしか出しませんよ。』



*

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