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「今宵は一年に一度、全ての者の願いが叶う日だ。お前は運が良いから、今日現世に戻ることを願え」
「えっ、そんなあっさり帰れる」「わけないだろ。人の話を最後まで聞け」
簡単なものだと思っていたが、違うようだ。
「今のお前は形だけは教団員だが、願いを叶えるには全て教団に浸透させる必要がある。教団の食事を食べ、教団の決まりを守り、教団の活動を行う。それが全てだ。幸い、今日は心苦しくなるような活動はない。射撃訓練と頭脳訓練のみだ」
食事として出されたのは、廃墟にはそぐわない、豪勢な料理。
なんでも、今日は願いが叶う日だから豪華に祝わねばならないとのこと。
イタリア料理に囲まれて、テーブルを見回す。
...ど真ん中に山盛りの焼きそばがあるのには笑った。
普通に食事をとり、少しだけ休憩する間に決まりの表を見る、が。
「読めねぇ...」
ミミズが這ったような線。
これが本当に文字なのだろうか。
「読めないなら読んでやる。早くメモ用紙を用意しろ」
彼女はその艶やかな美しい声で決まりを1つずつ読み上げる。
俺は渡されたペンで羊皮紙にメモして記憶した。
「お前、名前は」
「伊沢です」
「伊沢...こちらの世界では伊沢はこうやって書く。自分の名前の書き方くらいは覚えておけ」
またミミズの這ったような字だ。
だけどなんだかかかれているものよりも丸さがあって、女性らしいと思わず笑った。
「っ、笑うな!」
赤面しながら否定する姿もそれはそれは可愛かった。
冷徹な人だと思っていたけど、彼女は人間だった。
「あ、動くな」
ふと、彼女は思い出したように言う。
ピタリと止まって待つと、唐突に筆に銀色のインクをつけた。
ガスマスクに、その筆が触れる。
「これ、やるよ」
さっき書かれた伊沢の字と同じ。
ガスマスクをくれるらしい。
ま、使いどころないけど。
それでも形見のような気がして、とても嬉しかった。
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あむ - これ弾いたことがあって印象に残った一曲だったので……もしやと思い! (2019年10月31日 23時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
あむ - そうです!私も吹部所属してます!! (2019年10月28日 14時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - あむさん» バレましたか...とはいっても演奏したことはなくて。凄いですね。題名だけ少しいただいて、後は適当に書かせていただきました← お詳しいんですね (2019年10月26日 8時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
あむ - 星の船……Star ship かと思って…… (2019年10月25日 20時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - あむさん» 勘違いじゃないですよ、僕は以前吹奏楽部に所属していました。まあ訳あってやめたんですが。詳しいのは「インディゴの波に呑まれて」という作品の穴埋めで少し語らせていただいています。もしかしてあむさんも吹奏楽所属なのですかね? (2019年10月25日 17時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やまうみ。 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年9月2日 6時