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時は気付けば冬だった。
冬の寒い日に受験番号を持って板の前でドキドキと緊張しながら番号を探す。
白い息が邪魔だったが、上がる体温を冷ますには丁度よかった。
私の番号が刻まれた板の写真を撮り、私は既に走り出していた。
雪道に危ないと思われてもどうでもよかった。
夏に家を飛び出したときよりさらに速く、強く走った。
学校の扉は、先生の言っていた通り職員玄関が開いていた。
インターホンなんてどうでもよくて、勢いよくドアを引いて3階の図書室へと階段を掛け上がる。
肺が悲鳴をあげていたが、本当にどうでもよかった。
どうでもいいことばっかり。
私は先生だけを見ていた。
先生しか見えなかった。
ガラッとドアを開け、そこにいる赤髪の人に声を掛ける。
「先生!」
「...神崎さん」
先生は聞きたくてしょうがない様子だったが、わざと聞かなかった。
先生の前に座って、携帯の画面を開く。
「...っ、よかったやん、おめでとう」
先生は叫びたそうにしていた。
その様子がとても嬉しくて、思わず笑みが溢れた。
「ありがとうございます」
これで、勉強会も最後。
先生と生徒という、私達を結び付けていた最後の1本が、あと1ヶ月もすれば切れる。
「...私、先生のこと好きだったんです」
桜が舞うその木の下で、先生に私はそう告げていた。
「好き「だった」んですか」
「...実を言うと、今も好きです。でも、私は諦めてます...先生が、私を生徒としてしか見ることができないのを知っていたから」
「...そう、ですね」
「良ければ、貰ってください。もう着ません」
私は乱暴に制服の第2ボタンを千切る。
金色に輝くボタンを、先生に渡す。
「ありがとう、ございます」
「じゃあ」
関わりのなくなった私達は、きっともう出会うことは、多分ない。
ただこの狭い東京都の中で、もし、出会うことができたら。
「...神崎さん!」
もし、出会えたなら。
「僕も、好きでしたよ」
またボタンに代わる何かを渡して、愛の言葉を告げるだろう。
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あむ - これ弾いたことがあって印象に残った一曲だったので……もしやと思い! (2019年10月31日 23時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
あむ - そうです!私も吹部所属してます!! (2019年10月28日 14時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - あむさん» バレましたか...とはいっても演奏したことはなくて。凄いですね。題名だけ少しいただいて、後は適当に書かせていただきました← お詳しいんですね (2019年10月26日 8時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
あむ - 星の船……Star ship かと思って…… (2019年10月25日 20時) (レス) id: f3e7d915f1 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - あむさん» 勘違いじゃないですよ、僕は以前吹奏楽部に所属していました。まあ訳あってやめたんですが。詳しいのは「インディゴの波に呑まれて」という作品の穴埋めで少し語らせていただいています。もしかしてあむさんも吹奏楽所属なのですかね? (2019年10月25日 17時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やまうみ。 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年9月2日 6時