NEW WORLD

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「すみません、
お手洗いに行ってきます」



そう断って、席を立つ。

やっぱり来るんじゃなかった。

小林さんはお忙しい人だから
なかなかアポが取れなくて、
話をするチャンスだと思って来てしまったけど
さっきから仕事の話は全く出てこない。

おまけに両隣の子が
小林さんにアプローチをガンガンかけていて、
私が話しかける隙もなかった。

もう帰ろうかな、と考えながら
廊下を歩いていると、
後ろから来た人物が私の前に回り込む。



「Aさん、だっけ？」



そこにいたのは、ガラの悪い今市隆二だった。

なぜ彼は私を追いかけて来たのだろう。

訝しく思っていると
「その態度どうかと思うよ」と
諭すように言われて頭に血が上る。



「は？」

「人をバカにするような態度は、よくないよ。
みんな大人だから流してくれてるけど、
嫌な気持ちになってると思う。
もしかしたら好きでここに来た訳じゃ
ないかもしれないけど、
だからって関係のない人を
不快にさせていい理由にはならないよね？」



突然そんなことを言われて、
怒りを通り越して呆気に取られてしまった。

口をぽかんと開けて固まっていると
「はい、これ」と私の鞄とコートを渡される。



「帰りたいんならどうぞ」



涙が出そうになるほどの
強烈な怒りを感じたのは、初めてだった。

衝動に任せて鞄とコートを押し返したのに
今市隆二はびくともしなくて、
それがさらに怒りを増長させる。



「馬鹿にしてるのはあなたの方でしょ？！
なんなの、いくら私が気に入らないからって
なんであなたに追い帰されなきゃなんないのよ！
ふざけないで！」



だから男は嫌いだ。

女は自分の思い通りになると思っている。

帰れと言われて、
なぜその通りにしてやらなければならないのか。

こいつの言うことなんて絶対に聞かない。



踵を返して席に戻ろうとすると、肩を掴まれた。

「触らないで！」と跳ね除けると
「その顔じゃ戻れないでしょ」と
冷静な答えが返ってくる。



一体何を言っているのだろうと思ったら、
私の頬は涙に濡れていた。

さっき涙が出そうとは思ったけど、
本当に出ていたらしい。

アルコールは大して口にしていないのに、
おかしい。

今日の私はどうかしている。



手で頬を拭うと
「擦らない方がいいよ」と言われる。

余計なお節介だ。

私を厄介払いしようとしたくせに。

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