26 ページ26
「隆二」
「うん」
「隆二くん」
「それでもいいよ。Aちゃん」
そう答えた今市隆二が、はにかんだように笑う。
その瞬間、どくんと心臓が跳ね上がった。
「隆二くん」
「うん、Aちゃん」
子供じみた呼び方で、お互いを呼ぶ。
その度に胸が震えて、
こんなことは初めてだと思った。
名前を呼ばれると、胸が苦しい。
どうしていいか分からなくなって、呆然とする。
俯いて膝に手を置いていると
ごつい指輪をはめた
隆二くんの手が視界に入ってきた。
綺麗な手が私の手を掴んで、きゅっと握る。
「帰ろ」
甘い声に囁かれて、目眩がした。
手を引かれるまま立ち上がり、
駅に向かって歩き出す。
同じ方向の電車に乗り、
降りた先は、隆二くんちの最寄駅だった。
私を連れて帰るつもりなのだと気づいて
さらにくらくらする。
隆二くんはいつも受け身で、
自分から私に対して何かしたことはなかった。
電話する。
話しかける。
会いに行く。
服を脱がせる。
それは、私がしたいから。
それは、
隆二くんのしたいことという訳ではないと
思っていた。
なのに。
アパートについて、部屋に上がる。
私の手を引いてベッドの前まで歩いた
隆二くんがこちらに向き直り、
腕の中に私を閉じ込めた。
「嫌じゃなかった?」
「なにが……?」
「ここに、連れて帰って来たこと」
「うん」
隆二くんの固い胸に、顔をつける。
ベッドの中以外で
こんな風に抱きしめられるのは、初めてだ。
「俺ね。上手く話せないかもしれないけど」
「うん」
「笑う時に声出してない時があるって、
全然気づいてなくて。
Aちゃんに言われて初めて気づいて」
「うん」
「最初に電話くれた時、
俺は何者って聞かれて
自分が何者か知ってる人いんのって返したじゃん」
「うん」
「あの時充電切れちゃって、
あの後電話できなかったんだけど。
えっと、それで、」
隆二くんが自分から、
自分の思っていることを
こんなに話してくれるのも、初めてだ。
それがうれしくて、
柔らかな声を噛み締めながら聞く。
679人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつめ(プロフ) - みわさん» コメントありがとうございます!私も同じ気持ちで書いていたので、そう思っていただけてうれしかったです♪ (2018年11月14日 12時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
みわ(プロフ) - 最高です。こんな彼氏ほしいいいw (2018年11月13日 21時) (レス) id: ba7d4ba384 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - brqpm394さん» ありがとうございます!もうすぐ終わってしまいますが、がんばって更新しますのでよろしくお願いします♪次の更新も楽しんでもらえるとうれしいです! (2018年11月8日 14時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
brqpm394(プロフ) - このお話しめっちゃ好きです!!隆二くんとのイチャイチャ楽しみにしてます!!応援してるので無理のない範囲で更新頑張って下さい! (2018年11月7日 21時) (レス) id: 7d82fa9e71 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - aggyさん» ありがとうございます!たぶんそれは愛のなせる技ですね♪ふたりともかっこいいですよね!こんな元彼と彼氏ほしいです。笑 (2018年11月6日 18時) (レス) id: 273ec9fd08 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なつめ | 作成日時:2018年11月1日 18時