NEW WORLD

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早朝、今市隆二の家を出て
電車に乗り、
家で着替えて化粧をしてから
会社に行くと、
私の顔に目を止めた直人さんがニヤッと笑った。



「俺超ファインプレーじゃなーい？」

「何がですか」

「お・れ・の・お・か・げ！
隆二を紹介したのはこの俺だからね！」



直人さんは私の顔から何を読み取ったのだろう。

今市隆二の話など一言もしていないのに。



「いやーお前超分かりやすいよー。
スッキリした顔しやがって！」



踊り出しそうなほど浮かれた直人さんが、
去って行く。

なぜ直人さんが浮かれるのだろうか。

当事者である私は全く浮かれていないのに。



今市隆二とのことは、
私が一方的に電話をして
私が一方的に押しかけて
私が一方的に服を脱がせただけ。

彼は私を求めていないし、
ただ受け入れてくれただけ。
拒絶しなかっただけ。

だけど。

また今市隆二に会いたい。
話をしたい。
もっといろんな姿を見たい、と思う。

もっと深く、近づきたい。





夜になって、今市隆二に電話をかけた。

何度目かの呼び出し音の後、
今日も『はい』という柔らかな声が聞こえる。



「もしもし」

『うん』

「今話しててもいい？」

『うん』



相変わらず『うん』としか言わない。

だけど、もう焦りはなかった。

今市隆二はそういう人で、
少なくとも私を拒絶している訳ではないと
分かったから。



「今日は、何してた？」

『今日は、朝起きて、メシ食って、
仕事行って、……ごほっ、ごめん』



順調に話していると思ったら、
喉がつかえたのか咳払いをした。

その音を聞くのは初めてで、うれしくなる。



『で、昼メシ食って、仕事して、
帰って、風呂入って、晩メシ食った』

「そう」

『うん』

「寄り道したりしないの？」

『うーん、現場のみんなと
飲み行ったりすることはあるよ。
給料日とか』

「他は？」

『それくらいかなぁ。
最近結構友達が結婚してってて。
子供できたりしてるから、
あんま飲み行くこともなくなったし。
基本は、家と現場を往復するだけ』



今市隆二の1日は、簡潔だ。

ごはんを食べるか、仕事をするか。

毎日何を考えて暮らしているのだろう。

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