NEW WORLD

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「難しいことは分かんないけど。
Aさんがそうしたいと
思ってるからじゃない」

「……私が、そうしたいから」

「うん。
こないだ、怒りたかったから怒ったんでしょ。
泣きたかったから泣いた。
それだけのことじゃない？」

「じゃあ私は、
どうしてあなたと話したかったの？
どうして会いたいと思ったの？」



そう聞くと、今市隆二は声を出さずに笑った。

電話越しに聞こえた、息だけを出す笑い方。



「話したいと思ったから。
会いたいと思ったから。じゃないの」



そう言って、テーブルの上に両腕を置く。

パーカーの袖から覗く手は爪が大きくて綺麗で、
ごつい指輪がいくつか嵌められている。



「……この間、何であんなこと言ったんですか」

「あんなこと？」

「人を馬鹿にするような態度はよくないって」

「だって、よくないから」



まただ。この人はどうしてちゃんと
自分の考えを伝えようとしてくれないのだろう。

何を考えているのか知りたいのに。

何を思って私にあんなことを言ったのか、
ちゃんと知りたいのに。



「上手く言えるか分かんないけど……」

「いいです。上手く言おうとしなくても」

「うん……俺は、直人さんの、なんだっけ。
あの合コンみたいなやつ」

「異業種交流会です」

「そう。それに興味なくて。
でも直人さんがどうしても来てくれって言うから
行ったら、すげートゲトゲしてる女の人がいて。
その人はトゲトゲというか、
毒を持ってる感じがして、嫌だった。
だからそういうのはやめた方がいいよって言った」

「……」

「でも今はトゲトゲしてないね。
毒がなくなった。よかった」



それはきっとあの時、
怒ったり泣いたりしたことで
洗い流されたのだろう。

トゲトゲか毒かはよく分からないけど、
自分を保つために着ていた鎧が
溶けてなくなったようなあの感じは、
忘れられない。

迷子の子供みたいな寄る辺なさも。



「そういえば」

「はい」

「ドリンクバー頼んだのに、
取りに行ってないや」



そう言って立ち上がり、
今市隆二はドリンクバーの方へ向かった。

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