9 ページ9
．
地下鉄の出口の階段を駆け上がり
地上へ降り立つ
大きな横断歩道の少し先に
丁度、ハザードをつけて停まったのは
もう見慣れてしまったナンバーの車
左側の運転席の窓が小さく開き
紫耀「…ごめん俺、ここだと車の外出られそうにないから、そのまま乗って」
いつも必ず、席を降りて助手席のドアを開けてわたしを乗せる彼が
そんな風に、申し訳なさそうに窓から顔を覗かせて言った
そんなの…いいのに
平野くんのその表情を見ると、胸が痛む
A「…駅までごめんね。ありがとう」
紫耀「…まったく。勝手にデート終わらせないでよ」
そういう彼はやっぱり、少しぶっきらぼうで
なんとなくいつもの余裕がない感じ
さっきから全然、こっちをみてくれない
紫耀「…でも、そうさせたのは俺か…
…ごめん、Aさん」
平野くんは目を伏せて、乾いた笑いを零しながら
ダッシュボードから出した、"あの帽子"をわたしに渡すことなく
ぎゅっ…と、握り締めた
そんな顔して、謝らないで
A「……どうして謝るの」
紫耀「こうやって結局、変な気使わせちゃって
ふつうのデートすら、まともにできなくてさ」
悔しそうに、唇を噛んだ
掠れた声に切ないような音が混ざる
A「…かして」
彼の手に握られた帽子を手に取ると
平野くんは驚いて、ようやくわたしの方を見る
わたしはそれを深く被り、笑って見せた
わたしは全然平気だよって、伝えたかった
どうせ、この帽子だって
わたしに被せることを躊躇ってるから
ごめん…ってそう思ってるから
A「…そんなことで謝らないでよ。
今日、すごく…楽しかった
平野くんと一緒にいられて」
紫耀「……ほんとに？」
A「…うん。本当に。」
紫耀「…よかったぁー。楽しいって思ってんの俺だけじゃなくて」
やっと平野くんは、笑った
くしゃっと、目を細めて笑う
その笑顔にわたしは安心した
だけど
日に日に増していく、チクリと胸を刺すようなこの痛みを
消し去る方法はわからないまま
車はゆっくりと、走り出した
．
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1248人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たむ - もうこの作品の虜です！！続きが楽しみすぎる！！ (2021年7月4日 4時) (
レス) id: 7855f798e1 (このIDを非表示/違反報告)
Azuki(プロフ) - part2一気に読みました！再開してくれて、もう一度書く気持ちになってくれて本当に良かったです。素敵な作品なのでこれからも楽しみにしています。 (2020年3月23日 22時) (レス) id: 8005b02827 (このIDを非表示/違反報告)
さおちゃん。(プロフ) - 楽しみに待っています！ (2020年3月23日 20時) (レス) id: 5d40298e40 (このIDを非表示/違反報告)
あぐた。(プロフ) - part2、再スタートおめでとうございます。そして、再掲載してくださりありがとうございます。平野さんとの距離が絶妙で、胸が苦しくて…毎日の楽しみです。これからも更新頑張ってください。応援しています。 (2020年3月23日 10時) (レス) id: b86c6074bc (このIDを非表示/違反報告)
ちづる(プロフ) - 更新ありがとうございます！ゆっくりでいいです(^^)楽しみにしてます！ (2020年3月23日 1時) (レス) id: 74fbd2e6c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：わわ | 作成日時：2020年3月22日 23時
