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息を切らして自宅につくと、大昇が先に到着していたみたいだった。
目が合ったとき、大昇の瞳が揺らいだように見えた。
『おかえり』
「…ただいま、ごめんね、今開ける」
『…うん』
家に入ると、スーパーの袋を置いた大昇が『浮所に会ったの?』と聞いてきた。
流石チキン、野生の勘が鋭い。
「会ったというか見かけただけ。那須先輩と一緒だった」
『あー、そうなんだ。キッチン借りまーす』
「いつもありがとー、ねぇ、私も自炊できるようになりたい!」
げ、見たいな顔をすな。
何か夢中になれるものが欲しいの、傷心女子だから私。
『じゃあ一緒に作ってみる?…マジで不安要素しかないんだけど』
「私のこと馬鹿にしすぎでしょ!できるわ!!」
『俺がご飯作ってるのに…』
大昇が手際よくジャガイモを切っていく横で、牛肉と格闘する私。
「ねぇこの牛反抗期なんじゃない?」
『何言ってんの』
「切れない」
『俺は手伝わねぇから頑張れ』
「大昇ママひどい…」
そんなこんなで一時間かけてようやくできた肉じゃが。
ここからさらに2時間ほど煮込むらしい。もう食べたいんだけど。
『そんなもの欲しそうな顔するなって』
「仕方ないでしょー、おなかすいた」
『俺課題やっていい?』
「無視すんなよいいけど」
鍋を覗き込みながらブーブー言う私をほったらかしにして、テーブルの上にいろいろ広げだした。
実習はまだそんなにないって言ってたけど、見るたびにレポートとか裁縫とか、とにかく忙しそう。
『平野はさー、やっぱ浮所のこと好きなの?』
「そりゃあ好きだよ、何年も想い続けてきてあんなにあっけなく終わったんだもん」
『まあそうだよなぁー』
「そういう大昇は好きな人いないの?」
んー、とちょっと考えて一言。
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「平野のことずっと忘れられてないよ」
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作者名:ぬれおかき | 作成日時:2021年7月6日 0時