109.母と笑顔で語り合う -よじゃ- ページ12
一晩離れていた我が家に辿り着けば、ほっと息をつく。
事務所に寄る暇もなく戻ったから、床に下ろした荷物は、どさっと重たい音をたてた。
「はぁ、疲れた…」
身体の疲労とは裏腹に、気持ちは未だ興奮していた。
あんなに大声で叫んだ記憶が、思い返すたびに恥ずかしいのに、なぜか頬が緩む、浮つく気持ち。
これまで、父の墓前に立った後とは、まるで違う高揚した自分が、とても不思議に思えた。
「あ、そっか、電話しなくっちゃ...」
お墓参りに行くと、事前に連絡していた母から、仕事中に何度か電話が入っていた。
母もきっと心配しているに違いない。
きっと今までなら、寂しく眠れないような夜だっただろうから。
「もしもし?」
もう既に遅い時間にも関らず、数回のコール音で電話を取った母は、いつも通りの労いの言葉を投げてくる。
お父さんのとこ、どうだった?と、核心に触れてきたのは、少し経ってから。
「私も不思議だったんだけど…、会いに行くのが怖くなかったんだ。早く会いたいって思って…。
それにね、会った後も寂しい気持ちはほとんどなかった。笑顔でまたねって言えるなんて、今まではなかったでしょ?」
そうね、と同意する母と、少し笑い合う。
それだけ時間が経ったんだとか、
一緒に行ってくれたのが、ドンヘさんだったからだとか、
気持ちの整理がつきやすいタイミングだったからなんだとか。
そうかもしれないね、
きっとそうだね、
なんて言いながら、母と共に、この前向きな変化を喜んだ。
ドンヘさんに勧められて、大声で叫んだんだ、なんてくだりは、母も可笑しそうに笑ってくれて。
おとうさんもびっくりしたんじゃない?生きてた時だって言われたこと無いのに、とからかってくる声は、楽しそうだった。
こうやって、少しずつ、少しずつ、痛みから前に進んでいって。
涙しか無かったあの日を懐かしく感じるほどに、笑顔で思い出を語れる日が増えていくんだろう。
その一歩を踏み出すことが出来て、良かった。
ドンヘには、どれだけ礼を言っても足りないだろう。
あの笑顔の裏で、父への想いにそっと共感してくれて、優しさをくれる。
おかしな縁には違いないけれど、失ったもの同士、繋がる何かは、自分一人ではないんだと、どこかでずっと支えられてきたようにも思う。
ありがとう、と
伝えられる時に、伝えるべきだ。
ドンへだけじゃない。
私を支えてくれる、大切な人たちに。
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舞桜(プロフ) - 素敵な作品に出会えた事が嬉しいです。これからも書き続けてください。 (2015年11月29日 13時) (レス) id: 03ef754c9c (このIDを非表示/違反報告)
井上よじゃ(プロフ) - 全然気づかず…恐ろしくお返事が遅くなりまして申し訳ありません!!(土下座)いたわりのお言葉ありがとうございます!今回の連載はいい思い出になりました♪共同執筆はなかなか難しいですが、気分はいつも2人で一つ、でこれからも頑張ります♪ありがとうございます! (2014年11月29日 23時) (レス) id: cae000c27e (このIDを非表示/違反報告)
ちづ(プロフ) - あかねさん» こんにちは、ありがとうございます♪完結まで・・待ちたい・・(汗)すみません〜、私のせいでずいぶんお待たせしましたね(><)呆れず読みに来てくださって本当にありがとうございます!最近は企画する時間もなくて・・申し訳ない(汗)当面、自分の連載がんばりますww (2014年6月22日 9時) (レス) id: dd0328dcfc (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - お二人の単独作品も大好きですが、新たな企画ものをこっそり期待しています。いつも素敵な作品をありがとうございます(^^) (2014年6月18日 22時) (レス) id: c6e7bfcddb (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - 連載お疲れさまでした!お二人のチームプレイは抜群ですね。私は完結まで待って一気読みしたいタイプなので最終章は目次を見ながらワクワクしていました。改めて、もう一度最初から熟読して楽しみます~(^.^) (2014年6月18日 22時) (レス) id: c6e7bfcddb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちづ・よじゃ | 作者ホームページ:http://aojirushi.net/
作成日時:2013年2月26日 23時