ちづとよじゃのヌナ短編【05】-SJ-

イェウクと旅しよ、ぽかぽかと(4/16) ページ11

「ヌナー」
「ん！いたいっ」

目の前のマグカップを手にしたまま、物思いに沈んでいた私の頬をむにっと掴む。
その手の先には、リョウクがいた。


「変な顔してた」
「え？…ごめん」

「次その変な顔してたら、両方摘んでやる」
「やだ、やめてよ」

「本気だからね」
「分かったから、気をつける」


笑みを返せば、まったくもう、ってまだ不満気な彼の膨らんだほっぺをつつく。


「ちょ、何やってんの！反省してないの？！」
「あはは、ごめん」

「遅いな、2人とも。合羽は？買ったのか？」

「あ、そっか、合羽」
「忘れてた」


やってきたイェソンは、用事も済ませず寄り道していた私達に、それでもふっと、優しい笑みを零す。


「保護者が必要だな」

「誰？ヒョンのこと？冗談でしょ」
「私もジョンウンにお世話になるほど落ちぶれてない」

「やー、お前ら、ヒョンに向かってなんだよ、まったく…」

「ヒョンはさー、どれがいい？早く決めて」
「ちょっとリョウク！そんな目立つのダメだって。ふつーーーのにして」
「えぇー」

「おい、聞いてるか？俺の話」

「ヒョン、じゃあこれ、買ってください。お願いします」

「なんだよ、その投げやりな頼み方は」


目当ての合羽を却下され、後ろでうるさいイェソンに、不機嫌さを隠さず合羽を強請る。
そんなこと、リョウク以外がやったらさすがの彼も怒りそうだけれど。

なぜかこのコンビはこれが普通なんだから、リョウクって無敵だなって思ったりする。


「僕、ちょっとあっち見てるからー」

ものだけ預けて、さっさと立ち去る、その自由な背中を見送って


「A、会計付き合って」

イェソンのため息混じりの依頼に、一緒にレジへと向かう。


さすが、有名な施設だけあって、英語も通じて、ほっと安堵すれば、


「よし、行くか」


ポンポンと頭を撫でながら、ニコリと笑った彼に、いつの間にか手を引かれて歩く。

その頼もしさにとても、ホッとした。






ザーザーと互いの声さえよく聞こえないほどの大雨の中、人気もほとんどない遊園地はまるで貸し切りのようだった。

靴もすぐに濡れてぐちゃぐちゃになってしまったけれど、足取りはどこか軽い。


リョウクが一番目当てにしていたコースターのアトラクションはあいにくの雨で運休していたけれど、二番目に楽しみにしていたものは

「もう一回乗る！」

なんて、子供みたいにはしゃいで、雨の中でも全力でこの遊園地を楽しんでいた。



　

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