仮説 ページ3
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座席に座った相葉は、スマホで東山家の位置を再確認し、建物の位置や間取りのデータをスクロールして頭に入れていた。
大野から新たに来たメールもチェックし、警備の状況を把握すると、忍び込む場所をどこにするか思案する。
そのとき、電車が大きく揺れて、二宮の膝が自分の足を掠めたかと思うと、そのままくっつけてきた。
こいつ、俺の心を読もうとしてる。
触るな、と釘を刺すと、二宮は少し怯えた顔をした。
まさかな、とは思うのだが。
相葉の心の中には一つの仮説が持ち上がっていた。
もしそれが事実だったとしても、それがなんだというのだろう。
この、カズという名の、自分の声が聞こえる青年にとっては、おそらく知る必要のないことで、知らないほうが幸せだろう…。
相葉は、一人だけ、自分の心の声が聞こえる人間を知っている。
それは母だった。
一度だけ会ったことがある母。
相葉は初めて母に触れた時、言いようのない感情が押し寄せてきて驚いたのだ。
謝罪、後悔、憐れみ、哀しみ、愛情…。
母は、ごめんなさい、ごめんなさい、と幼い彼の手を握って謝った。
そう、そうよ、私はあなたのお母さんなの。
でも、もうあなたに会うことはできない。
泣きながら、息子の頭を撫で、ぎゅっと体を抱きしめた。
施設の裏庭での出来事。
最初で最後の母との逢瀬。
今となっては、あれが現実だったのか夢だったのか、相葉には分からなくなっていたのだが。
何の偶然か、カズと出会い、母と会った、あの時のことを思い出した。
あの時と似ているのだ。
カズに触れたときに感じる、カズの意識、感情。
カズは、もしかしたら、自分と血が繋がっているのでは？
それが相葉の立てた仮説だった。
相葉の能力は、おそらく母譲りで。
二宮の感情を感じることができるのは、きっと父親か母親が同じだからで。
血の繋がりが感覚を敏感にしているのではないか、そんなふうに推理したのだった。
だからといって、相葉はその推理が正しいのかどうか、確かめようとは思わなかった。
いや。
確かめる必要なんかない。
そうだよ、まさかそんな訳ないんだから。
自分は大野と同じ、天涯孤独の身。
大野を守ることが自分の生きている意味なんだ。
相葉は、窓の外を見ている二宮をチラリと見やった。
もし自分に弟がいたら、こんな感じなのかもしれない、と。
小さな夢を、少しだけみた。
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作者名：もここ
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/mokoko_pl_f/
作成日時：2014年11月6日 14時
