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結局、降谷と緑川が話をすることはなく、気まずい空気が流れる中仕事を続けた。本当はああいう伝え方では言葉が足りていないのだろう。分かってはいても、それ以上を話せば何も隠していられなくなる。私も降谷も、この不自由な立場で抱えるものを明かさなければいけなくなる。そんなこと、出来るはずがないのだ。
テロに限らず、人に危害を加えることを目的とした事件の場合、警察官が怪我をする確率も当たり前だが上がる。私の身体にある一番大きな首元からの傷も、そういった事件で付いたものの一つ。
『頼むからもう動くな…!』
その声を今でも鮮明に思い出せる。あの時、私を止めたのは緑川だった。出血多量、意識混濁、腰まで引き裂かれ突き刺さった鉄パイプ。後遺症が残らなかったのが奇跡だと言われた。みんなが知っている。守る対象を見つけた私に見えているのは前だけで、下手をすれば死ぬまで止まれないことを。だからこそ、そうなってしまう前に止めようとする。もう二度と同じ場面を繰り返すまいと。
でも、私の身体に痛みがないのは事実で、怪我や死に対する抵抗がないこともまた事実。一瞬の迷いが結果を左右する現場では、躊躇ってはいられない。私とは違う、“普通”と区分される人たちが本能的にその躊躇いを捨てられないのなら、どう回り道したって私がやるしかないのだ。
「Aさん、」
「何?」
「もし、大丈夫でしたら…お昼ご一緒してもいいでしょうか」
「え…あ、ああ、そんな時間か。いいよ、別に」
風見にそう言われたので、降谷にそれを伝え休憩室で食事をすることにした。万が一に備え、なるべく徹夜や身体へ無理の掛かる仕事の仕方はしないように課員には言ってある。
「断られるかと思ってました」
「昼くらいなら別に平気だよ」
「…この前の件は、すみませんでした…ご迷惑を「もう何回も聞いた。お前のせいじゃないだろ」
そのくらいの怪我で済んで本当に良かった。爆破なんて予測するのも難しいのだから仕方がない。
「……差し出がましいのは承知の上ですが、考え直して頂くことは出来ませんか」
「……考え直すも何もな…」
「いつもの降谷さんならあんなこと…」
言うはずがない、当たり前だ。
あれはあいつの意志のようであって、全く違うものなのだ。私が気付いていることも降谷は分かっている。お互いが見て見ぬ振りをしなければならない。
嫌という程、理解している。
それが私たちの仕事なのだから。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年6月1日 8時