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・松田視点
眠りながら涙を流すAを俺は何度、目にしただろうか。起きている時、泣かないわけではない。元々表情も感受性も豊かだから泣くこともあるけれど、心無い言葉に対しては一切、悲しみを見せたがらない。
どうして、身を挺して人を救おうとするAが悪く言われなければならないのか。理解が追い付かずとも、あれが淀みない正義であることくらい分かるんじゃないのか。多分、言いたいことは全員同じ。口にしたら堪えられなくなるから、誰も言いはしない。
「Aの止まれない理由が、憎悪だったらまだマシだったよ…」
静かにそう言った萩原の言葉に全員が同じ光景を思い浮かべたはずだ
『止まらないのなら、私はお前を殺してしまうかもしれない』
何年前の事件だったかは覚えていない。それは無線で聞こえたAの声。壊れた無線がその場の音を絶えず拾っていた。離れた場所にいた俺たちに直接声は聞こえなかったが、血が滴るナイフを強く握り締め犯人と対峙していたAはそう一言、静かに言った。
『もうやめろ、誰も殺したくない。それでもやめないと言うのなら覚悟をしてくれ、私も止まれないんだ』
その声は怒りでも憎しみでもなく、悲しみに満ちて、他の捜査員がどう思ったかは知らないが少なくとも俺たちは、こいつの心には本当に正義しかないのだと思い知った。同時に、止められないと悟った。
負の感情で動いていたなら止める方法はある。相手はAだ、説得だって無理ではなかったかもしれない。ただそれが正の感情だとなると全く話は変わってしまう。正義は、圧倒的な光は誰にも消せない。それを嫌という程知っている。
「……初めて会った時には…もう今のAだったよな…馬鹿みたいに真っ直ぐで…」
その萩原の眼差しは優しく、瞳には涙が滲んでいる。あの事件があってから、Aが怪我を負う度にどうしようもない不安に襲われる。
絶対に、Aを死なせない。
それは5人で決めたこと。
失いたくない、止められなくても逝かせるわけにはいかない。縋るような思いを持ちながら、変わらないAを見ればそれだけで救われた。
「……このまま、ずっと寝ててくれりゃいいのにな…」
思わず言葉になる。
お前は守られていてはくれない。安全な場所に留まれないことは俺たちが一番よく知っている
どれだけ傷付いて欲しくないと願っても。
その時俺は、すぐ傍で悲しそうにそれでも愛しそうにAを見つめる降谷を久しぶりに見た気がした。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時