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・松田視点
身体を折り曲げ、俺の膝で寝息を立てるA。ここから見えるだけでも随分傷が増えた。痛みがない。それは想像すら難い世界。ただ、感覚がないだけでこいつは超人なわけではないのだから怪我をすれば俺たちと同じように身体に負担がかかるし、傷の治りだって特別早くはない。本人の自覚がない、違うのはただそれだけ。
「今回は何回やり合った?」
「五回。」
「初回は物理攻撃ありな」
「そんでもこれか…」
「戻ってきてるんだよ、Aの目が…あの時に」
降谷はこの件に関してのみ同一人物かと問いたくなるくらい不安そうな声を出す、いつもだ。相当なトラウマなのだろう。実際、あいつにあの目を向けられたことがあるのは降谷だけだ。
「…今回の、高校生。確かにAが飛び込まなきゃ死んでた、間違いなく。それが軽い切り傷で済んで、トレーラーに撥ねられたのはこいつだけ」
「実際…今までもAがいたから救えた命が山程あるんだよな…だけどやっぱり駄目だろ…こんなの…今はそれでも生きてるから…」
緑川が口篭り、それに伊達が続く、
「それが続くなんて保証はどこにもねえ。ただ、上の奴らは、国の為なら命張れって言うかもしれねえよな、お前らみたいな部署なら特に…」
「……Aはまだ動けるのか、そう聞かれたことがある」
「…上にか?」
「ああ。まだ使えるのかって聞き方だった。覚えてるだろ、高層ビルの…」
「…あの時か…あれも長く掛かったな、ひでえ傷だった」
「使えるなら、使えと………矛盾してるさ、分かってる。俺たちが守るのは国だ。切り捨てることも切り替えることも平気でいなきゃならない、そうしてきたはずなのに……怒りで声が出なかった。っAは…道具じゃない、っ生きてるんだぞ…」
震える声でそう言った降谷は、眠るAの頬に触れ、顔を歪めた。
降谷は誰よりも感情を殺してこの仕事をしてる。長い付き合いの俺たちから見ても底が知れない程に。でも、降谷だって人間だ。感情を殺してでも任務につくのは譲れない正義があるから。大事な人間を見殺しになんて出来るわけがない。それが国の為だと、自分の使命だと言われても。相手がAなら尚更。
周りはAを異常だと言う。本人も反論しない、別に構わない、本当のことだから、と。
繰り返される否定に傷付いていない振りをしたって分かるんだよ。唯一お前が持つ“痛み”の涙は、夢の中でしか流せないんだろ、A
伝った涙が膝にシミを作った
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時