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・降谷視点
Aの出て行く後ろ姿に何一つ言葉が出ない、
許すことなど到底出来やしなかった。
幾度となく繰り返してきた似たような内容の口論は全て、あいつが持たないブレーキの代わりに自分がなる為。それでも振り切られることもなかったわけではない。ただその時は必ず決まって約束をさせた。A自身も俺たちがどんな気持ちで自分を止めているのかを知らないわけではないから、なるべく善処する、と言って出ていく。それでも無傷で帰ってくることなどまずない。ここ最近は指揮する立場になったことを理由に押し留めていたが、限界が来ている気がした。今回、何とか止められたとしても次はどうなるか。
忘れていたわけないだろ、
考えたくなかったんだ、俺は
お前の走って行った先には絶望が待っていると知っているから。
分からないと笑うその顔がどうしようもなく、触れられたくない傷を抉られている感覚にさせる。
自分の身体を、命を、国や人を救う為に使うことにあいつは躊躇いがない。僅かな恐怖もない。危険な状況を前にして、その手や脚に力を込める一瞬すらない。あいつを遮るものは恐らく何もないのだろう。その振り切った正義と使命感は理解の追いつかない次元にあり、やれと言われても容易に出来るものではない。
それなのに、
近づいていた、あの目に、戻ってきていた。
それを恐れ、遠ざけたはずだった。
少しは怖気づけばいい、迷えばいいと、力任せに押さえつけたって、少しもその瞳を揺らしもしない。本人は無意識なのだろう、俺を“零”と呼ぶ時はもう何をしたって無駄だ。それがくだらない言い合いでも、生死に関わることであっても同じ。
「ごめん、か…」
『ごめん…零…ごめん…』
ああ、聞きたくなかった。
謝られたくなかった、あんな顔で。
血に濡れたAは俺を“降谷”と呼んだことはない。
“零”
それが聞こえてしまったら、もう囲いは破られている。
あの日と同じように。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時