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降谷にこんなことをぶつけて、一体何になるっていうんだ。頭では分かっているのに、もうどうにもならなかった。
逃げ出せない力で押さえられ、首元の傷痕に寄せられた降谷の鼻の辺り、怖いか、と聞かれ息が、唇が触れる。怖い、どうしようもなく、けれど言葉になってはくれなかった。
私の口からその言葉が出ることを降谷は望んでいる。怖くないと虚勢を張ることに何の意味があるのかと、その通りだ。でも、
「こんな、感覚…っいらなかった……！」
震える手でその肩を掴み、額を合わせて必死に言葉にしたそれは本心だった。
私から痛みを奪って、苦しみも恐怖すら失わせたくせに、どうしてこんな感覚ばかり鋭くさせ残す？誰にぶつけたらいいんだ、こんな気持ち、もう抱えきれない。
「……なあ」
「っ、な、に…」
「……いつからだ、そんな風になったのは」
そんな風に、傷痕が過剰な感覚を持つようになってしまったのは。降谷の言葉に含まれていた問いかけ
「傷痕に触れられるのが嫌いなのは昔からだろ、それは知ってる。でも……そんな風に取り乱すお前を見るのは、初めてだ」
勿論覚えてはいる、けれど思い出したくない。
「A」
こういう時の降谷の瞳に、私は逆らえない
「……この、傷の…後から…」
自分の首元に触れ、そう答えた。私も、きっと降谷や同期たち、関わった警察関係者も覚えているであろう事件。私の身体に一番大きな傷を残した事件。理由は分からない、ただあれから傷に触れられた後は吐き気を催すようになり、涙が止まらないこともあった。湧き上がる恐怖が身体中を駆け巡るようになってしまった。
俯かせていた顔を無理やり正面に向かされ見ると、降谷の瞳は怒りに揺れている
「どうして言わなかった」
「……言ったって、どうにもならない」
「どうにもならない？少なくとも対策は出来たはずだ、お前は「傷はなくせないだろ！」
息が、酷く苦しかった。それを伝えたところで傷が消えるわけじゃない。傷痕に触れられる機会を失くすなんて不可能だ。任務であればやらないわけにはいかないのだから。
「…そうだ、怖いよ…っでも仕方ないだろ！言えるわけない…！傷を負うのは平気なくせに触れられるのが怖いなんて…」
今も止まらない震えを自覚しながら自分の身体が如何におかしいかを理解する。自分の感情や身体に構っている暇なんて私たちにはないじゃないか
直後、強く腕を引かれ至近距離でぶつかった視線、鋭い瞳に捕えられて動けなかった
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作者名：真琴 | 作成日時：2018年4月20日 23時
