たった1人のお姫様 (ページ10)

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『離して』

松村「離さない」

『離して！』

松村「離したらどっか行くだろ？」

『北斗はそれを望んでるでしょ？』

松村「そんなこと俺がいつ言った？」

『言わなくても分かる。
　話しかけたらめんどくさそうにされて
　好きか？って聞いても、何言ってんだよ
　の一言』

松村「それは…」

『北斗を…嫌いになりたい』

耐えきれず溢れた涙
掴まれていた腕は一瞬緩んで、
私の力でも振り解けるほど。

私は…振り解くことを選んだ。

高地「あれ？A？…って」

信号に止まる車が声をかけて来た。
神様はある意味私の見方をしたのかな？

助手席側のドアを開け乗り込めば驚く優吾

『出して』

高地「は？」

『いいから出して』

高地「シートベルトはしろよ？」

優吾は優しいね
きっとこの一瞬で状況がわかったんでしょ？
サイドミラーに映る北斗。
嫌いになれたら楽なのに…

優吾の家にお邪魔すれば、
目の前にはいい香りの紅茶。
コーヒーは眠れなくなるからダメって

高地「で何？けんか？」

『けんか…なのかなー』

高地「早く仲直りしろよ？
じゃ無いと北斗の機嫌クソ悪くなるんだから」

『なるわけないじゃん
　他に好きな子いるみたいだし』

高地「はぁ？あいつが？なんか言ったの？」

『言った。っていうか、
　聞いちゃった。って感じかな
　電話でさ好きに決まってるって
　それはそれは甘い声で言ってたよ』

高地「それがAが言う他に好きな子ってこと？」

『そりゃそうでしょ？
　私には好きって言えないんだもん』

高地「あいつ口下手だしな」

『そうだね…
　それでも私のこと好きだって
　自信さえあれば良かったんだけど、
　無くなっちゃった…自信』

宥めるように撫でられる頭。
ごめんね優吾。
こんな時まで浮かぶのは北斗の綺麗な掌だよ

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