たった1人のお姫様 (ページ13)

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T.Fukazawa ページ13

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『もう限界』

追いかけなければいけないと分かっているのに
状況が掴めない自分がいた。

ことの始まりは数時間前。
日付が変わる前畳んだ傘から滴り落ちる雨水によって水溜りを作る中、カバンから鍵を出し部屋の中に入ればいつもなら消えているはずのリビングの光

深澤「ただいま。起きてたんだ」

『うん…』

仕事が忙しい。とか、刺激が欲しい。とか
ありがたいことに順調に増える仕事。
それと比例するかのようにそういったお誘いも増えた。
きっとAも気付いている。

深澤「早く寝ねーと、明日起きられねーぞ」

軽くシャワーは浴びてきたが、
気まずさなのか、後ろめたさからなのか
俺はAの顔も見ずに浴室へと逃げようとした。

『…辰哉にとって私必要？』

後ろから聞こえた言葉に

"あたりまえだろ？"

そう言って抱きしめなきゃいけないことは分かっているのに

"なに馬鹿なこと言ってるんだよ"

出てきた言葉は俺でも残酷だったと思う。

表舞台に立つことが増えた事で身に付いた作り笑顔。
いつも通りの態度で振り返れば

俺の愛していた人は
目に涙を溜め、悲しそうに微笑んでいた

『もう限界』

そう言って俺の横をすり抜けていくA
ガチャンとドアが閉まる音で我に帰った

A…

財布も鍵も持たず、出ていった背中を追いかけるようにドアを開けたがエレベーターはすでに動き出していた。

くそっ…

ボタンを連打しても来る気配のないエレベーター

気持ちだけが焦りやっときたエレベーターの壁に当たる俺。全部俺が悪いのに

ポーンという合図とともに開く扉
自動扉が開く時間さえももどかしい
エントランスを抜ければ
未だに降り続く雨によって地面が濡れている

周りを見渡せば今まさにタクシーに乗ろうとしているAの姿

「A！」

「行くな！行かないでくれ」

叫んでもこの雨のせいで届かない声
残酷にもAを乗せたタクシーは水しぶきをあげ遠ざかっていった

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