霞ガカル ２

<４０> side F ページ40

「好きだよ？

　離れてからも、
　思い出さない日なんて…なかったよ。」


「そう、か…」


「だから、教えてほしい。
　どうしてあんな嘘ついたのか…
　ちゃんと知りたいんだ。」





「………本当のこと知ったら、

　きっとおまえは…
　俺と一緒にいられなくなるよ。」


「…どういうこと？」


「俺とはもう…
　逢いたいなんて二度と思わなくなる。」


「なに？…よくわかんない。
　俺がみっくんを嫌いになるような、
　そんな理由があるってこと？」


「…」


「どう…かな。わかんないけど…
　でも、たぶんそれはないと思うよ？」





自分の気持ちのしぶとさなんて、
自分が一番よくわかってる。


今までだって散々だった。


それでも…
この気持ちが消え去ることなんて、
結局は一度もなかった。





「……そういうことじゃないんだ。」


「じゃあ、なに？」


「俺は…」


「うん、」


「俺は、明恵を……」


「姉ちゃん？を…？」







「俺は、明恵を………殺した。」







「…ぇ？」


「俺が明恵を殺したんだ…」


「ころした、って……え？」





唐突すぎる彼の言葉。


静かな部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。







「殺したって…だって…
　姉ちゃんは、事故で死んだんだろ？」


「…そうだよ。
　直接の死因は交通事故だ…」


「じゃあ、なに？
　殺したって…どういうこと？」







「明恵は…あいつは…
　俺のことでずっと、悩んでた…

　事故に遭う直前まで、
　そのことで思い詰めてたんだ。

　だから、
　目の前の信号が赤になったことにも
　気づかずに…
　道路に…飛び出した…

　俺のせいで、あいつは死んだんだ…
　俺が殺したも…同然だよ…」





姉ちゃんが事故に遭った時の状況は、
もちろん両親から聞いていた。


赤信号で誤って道路に飛び出してしまい、
そこを車に跳ねられてしまったと。







「そう、だったんだ…
　たしかに、そんな事情があったなんて、
　いま初めて知ったよ…

　でも、さ…それは、
　みっくんのせいなんかじゃないじゃん。

　そりゃ、姉ちゃんはみっくんのことで
　なにか考え事してたのかもしれない…

　だからって、
　そのことでみっくんが姉ちゃんを
　殺したってことにはならないよ。」


「……」


「俺は…
　そんなことくらいでみっくんのこと、
　嫌いになったり軽蔑したりしないよ？」







俯いていた顔が再び上げられた時、


彼の頬には綺麗な涙が伝っていた。







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