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かくして、姉と二人での生活が始まったわけだが、アルバイト経験も何の資格もない姉が務めたのはスーパーのレジ打ちだった。当然それだけで二人分の生活を賄えるはずもなく、更にエスカレーターで進学した私立高校は、いくら助成金があるといっても何かとお金が必要であり、それは俺たちを苦しめた。
本人曰く取り柄のない姉が、手っ取り早くお金を得られる仕事―それが風俗だったのだろう。
俺は、幸せにすると誓った人を、自分のせいで地獄に突き落とすこととなった。
姉が風俗で働き始めた頃、同時に俺はジャニーズJrとしての活動を始めた。一人で生きていく道としてオーディションを受けていたことが幸いし、またどこか抜けた姉が書類をよく見ていなかったことも運が良かった。
姉はきっと、俺に仕事なんてせず、学生生活を楽しんでほしいと思っているのだろうから。
ジャニーズJrとしての活動は、勿論辛いことが多いけれど、やりがいもあった。勉強のようにただがむしゃらに努力すれば報われるわけではないこの世界の複雑さと、その中での一つ一つの成功体験は、姉にあんな仕事をさせているという不甲斐なさと、年下であり学生であるという自分の身分を呪う気持ちから少しずつ解放してくれるものだった。
自分を含むグループが結成され、少しずつ今までの努力が形になっていることを感じたし、何より一日でも早く姉をあの仕事から解放したかった。
姉が夜勤といって家を出る度、どこの誰とも知れぬ―恐らく小汚いおっさんであろう―に抱かれている姿を想像しては、腸が煮えくり返るような怒りと、そこに貶めているのは自分であるという事実へ絶望した。
金を払って姉を好きにできるそいつらが、どこか羨ましかったのかもしれない。俺がどんなに想いを抱いても、どんな大金を渡しても、姉と俺がそうなることは、恐らく一生ないのだから。
ならせめて。
せめて、独り占めしようと思った。
俺が養うから、姉にはずっと家にいてもらえばいい。
金でしか繋がることの出来ない奴らは、気の毒だ。
姉は、他でもない、俺のために働いている。
姉のことを好いている、俺のために。
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作者名:渚 | 作成日時:2019年11月5日 0時