side:brother ページ6
姉は、いつだって、俺の気持ちに気付かない。
「姉ちゃん、」
「何、雄登。ああ、お金?財布から取っていいよって、いつも言ってるじゃない。お姉ちゃん、もう仕事行かなくちゃいけないけど、明日もちゃんと朝起きて学校行くのよ。」
俺がまだ小学生の時だ。両親が再婚した日から、俺たちは姉弟になった。いわば義理の兄弟であるにもかかわらず、姉の俺に対する姉弟としての愛情は、自身の父親に対するものよりも強いものであることは、今この現状を鑑みるに間違いではないだろう。
ほんの、1年前のことだ。
母が、俺にとっては唯一血の繋がった存在であった母が他界した。
それまで仲の良かったはずの家族は、母の死と共に崩壊した。
父親は、俺の顔を見ると、醜いものを見るような顔で、ただ一言、出ていけ、と言った。
父親が俺のことを嫌った理由は分からない。
ただ、母が亡くなって、色々と整理しているうちに判明したのは、両親は内縁の関係であり、母が亡くなった今、父親と俺の間には何の関係性も無いという事だけだった。
俺は、そんなものだ、と思った。
だが、姉は違った。
勉強の苦手だった姉が、やっとのことで合格を勝ち取った大学を辞退し、俺と共に家を出る道を選択した。
父親は当然ながら大反対であったし、何なら俺だって反対した。
好きな人を、不幸の道連れになんてしたくなかった。
名門私立中学に入学できたのだから、都立高校でもそこそこのところには入れるだろうと思ったし、施設に入ることに抵抗はあったけれど、どうせたったの3年間だ。奨学金でもなんでも貰いながら一人で生きていける。
何度姉にそう説いても、反応は同じだった。
「駄目よ、私が雄登と一緒にいたいんだもの。何を言ったって、雄登が私を嫌い以外の理由じゃあ駄目。」
姉は柔らかくて流されやすい一方で、こうと決めたら頑として譲らないことが時々あった。どうやら今回がそうらしい。
だから俺は、姉と二人、ひっそりと家を出る時に誓ったのだ。
人生をかけて、この人を幸せにするのだと。
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作者名:渚 | 作成日時:2019年11月5日 0時