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｢ただいま。｣
｢おかえりなさい、あなた。｣
家で夫を迎える。
海外での事業を主としている彼は、こうして月に数日帰国する以外は、向こうでの生活を主軸にしている。
｢留守の間、何も無かった？寂しくなかった？｣
｢ええ、大丈夫よ！……勿論、寂しかったけれど、お友達と出掛けたりしてたから。｣
夫は私を抱き寄せて、そっと唇を重ねてきた。
私もそれに応えるように、首の後ろに手を回す。
彼は満足そうに微笑み、今度はそっと私の身体を抱き締めた。
夫はいつだって、私の事を壊れ物のようにそっと扱う。まるで、気を付けていなければ壊れてしまうと思っているかのように。
夫は私に、お金もジュエリーも車も、この都会の一等地にあるマンションも、欲しいものなら何でも与えてくれる。
だからその代わり、私は好きでも無いこの人に、月に数日、こうして見せかけの愛情を注ぐのだ。
キスにもハグにも満足したのか、夫は優しそうな顔で微笑んで、リビングに向かっていった。
私も少し後ろを追い、直ぐに夕食の支度を始めた。
｢さっきも聞いたけれど、留守の間、困った事とか無かった？｣
｢やだ、あなたったら心配症ね。本当に大丈夫よ。何かあったらいつでも連絡するって、いつも言っているでしょう？｣
｢それは勿論。Aからの電話なら、いつどんな時だって必ず出るよ！｣
｢やだ、あなたの邪魔になるのは嫌よ。｣
｢邪魔な訳ないだろ。寧ろ、もっと連絡して欲しいくらい。仕事のことを気にしてるのは分かるけどさ、俺はAから連絡があったら、もっと頑張れると思うなあ。｣
テーブルに食器を並べる手が震えていないか心配になる。
｢じゃあ、今度からは、気が向いたら連絡してみるわね。｣
｢うん、そうして欲しい。便りないのは何とかって言うけれど、心配なんだ。分かってくれるよね？｣
｢勿論。さあ、ご飯食べましょう。冷めちゃう。｣
｢そうだね。いただきます。……うん、やっぱりAの料理は美味しい！世界一だよ！｣
無邪気に微笑む夫に、私も、良かった、と笑いかけながら、机の下で震える手を必死に抑えた。
夫は―紫耀は、いつだって私を支配したがる。
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作者名：渚 | 作成日時：2019年11月7日 3時
