結婚しない二人 (ページ11)

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あの人―Aさんに初めて会ったのは、バイト先のバーだった。

売れない俳優をしている俺に、『どこかで会ったことない？』と、ナンパさながらに声を掛けてきた人が、Aさんだった。

……実を言うと、以前来店した時から美人だな～って思っていたので、声を掛けられた瞬間はもう有頂天で、心臓動きすぎて止まるんじゃないかと思ったくらい。

でも、左手の薬指に光る輪がみえた瞬間、ああ、この人もそういう人か、と、その高鳴りはあっという間に萎んでしまったのだけれど。

｢あー、一応俳優やってて……。売れてないんすけど、｣

｢あら、そうなのね。じゃあ、何かに出演されてたのをみたんだわ、きっと。｣

その綺麗な微笑みに、萎んだはずの高鳴りが、さっき以上になって戻ってくるのを感じた。

まさに、恋に落ちた瞬間だった。

彼女が、愛に飢えている事を知って、いけないと分かっていても、その隙間を満たすのは俺でありたいと、そう思った。

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