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そうは言っても仕事は仕事だ。
メイクを直してもらって気持ちを切り替えた。サテン生地のキャミソールに太めのデニムとカジュアルな雰囲気の衣装だったから、絡みも軽めだろうと正直ほっとしていた。
………のに。
「末澤さん、キャミソール上げるつもりで左手もうちょっと上に、あ、そこ。顔はAさんの右肩に埋めましょう。舌出してもいいですね」
出される指示が正門との撮影の時より、なんか、濃い！！！
「Aさんは完全に支配されてるって気持ちで。手は末澤さんの腰に回しましょうか」
撮影のはじめにカメラマンさんから、私→誠也くん→正門→私で報われない恋をしているようなイメージで撮るから、と言われたことを思い出す。
誠也くんは指示通りに動いている。
けど、キャミソールの下で私の肩甲骨をなぞったこととか、右肩に唇を触れさせたこととか、誰も気付かないくらいのアドリブが私にはじわじわ効いていて、本当に支配されている気分になる。
「そのまま末澤さん側からも撮りますね。Aさん、その表情いいです。そのままで」
セットは昼間みたいに明るいベッドルームだ。さっきまでの薄暗いバスルームと違って、シラフで恥ずかしいことをさせられている感じがする。
「良い顔やな」
「…誠也くんこそ」
ボタンの外されたシャツの間からは白い肌が見えている。同じように痩せても、肉がなくなって薄っぺらくなるだけの私とは違って、うっすらと筋肉が浮かんだお腹に、誠也くんが男であることを意識させられる。
「次、二人とも寝転んでもらって、Aさんが末澤さんの上にうつ伏せに被さる感じで」
「うえ？！」
「体は離してていいですよ。肘を末澤さんの頭の横について、あ、末澤さん大丈夫です？」
「はい」
メイクさんに前髪を直された誠也くんは、当たり前のように了解する。
深呼吸をひとつして、ベッドに手をついた。
スプリングの軋む音が何倍にも大きく聞こえる。恐る恐る誠也くんの体をまたいだ。体を離してていいと言われたって、上半身を落として肘をついたらほぼゼロ距離だ。一瞬だけ私の顎と誠也くんの鼻先が触れてかち合った視線はすぐに逸らされた。シャッターを切る音は止まない。
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作者名：三十谷みそ | 作成日時：2024年3月4日 23時
