キスキスバンバンⅢ (ページ28)

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『前に、万智に避けられてるかもて言うてたやん。』

いつかのこじけんの声が頭の中で響く。
俺、今、うまいこと驚けてたんかな。

『すまん。あれ俺のせいやわ。』

Aが俺の夢見たって話。
前にこじけんから聞いてた。

こじけんもAも、バカがつくくらいの正直者。
自分が悪者になるとか、恥ずかしい思いをするとか、そういうエゴに負けへん正義の人たちやから、その分俺が嘘つきになればいいと思っていたのに。

あの時、こじけんの話を冷静に聞けたのは、運転していたおかげかもしれない。

・・・・・

「三人でAの家に泊まった日ぃ、朝方、大晴いったん出かけてたやん。」

「おー。」

あの日、チューハイを何本か開けたAは、ひとしきり笑った後、電池が切れたみたいにコテンと寝てしまった。
しばらく二人で喋っていたけど、こじけんもだいぶ目蓋が重そうになってきて、一人元気やった俺は朝飯を買いにコンビニに行ったのだ。

「その時に、俺、Aにキスした。」

喉の奥がヒュッと狭くなる感覚。
怒り？焦り？悲しみ？どこにも振り分けられない感情が、一つの大きな驚きになって俺の頭をガンッと揺らした。
落ち着け。
そう自分に言い聞かせて、ハンドルを持つ手を少し緩めた。

「えーと、細かいこと聞いていいか分からんのやけど。」

「おん。」

「どういう流れでそうなったん？酒ちゃうよな？」

「ちゃう。」

即答、か。
こじけんは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。

「あいつな、たまに寝ながら泣くねん。夢見てんのか知らんけど。あん時も泣いてて。」

「うん。」

「寝言で好きやった人の名前とか、言うて。」

「うん。」

「何してんねん、て腹立ってきて、Aも俺も。そんで、なんか……してもた。」

こじけんはそこまで言って、慌てて「口にはしてへんで！」と付け足したけど、口以外って、逆に生々しいわ。
普段から距離が近い二人なのに、甘い雰囲気になった所が想像できなくて、キスというワードだけが宙ぶらりんになる。

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